ウニは全身が「脳」でできた動物だった
ウニは全身が「脳」でできた動物だった / Credit:Canva
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ウニは全身が「脳」でできた動物だった

2025.11.14 20:00:59 Friday

ドイツのベルリン自然史博物館(MfN)を中心に行われた研究によって、ウニの体はまるごと一つの「巨大な脳」だという驚きの結果が報告されました。

研究チームが地中海に暮らすヨーロッパムラサキウニを詳しく調べたところ、本来なら頭部に集中するはずの神経や感覚に関わる遺伝子が、ウニの場合は体じゅうの表面で活発に働いていることが分かったのです。

反対に、胴体として働く遺伝子は内臓だけでひっそりと活動していました。

つまりウニの体は、「脳」のような情報処理を行う神経が体全体に広がり、胴体らしいものはほとんどない、という極端な構造をしているのです。

この状態を研究者は「全身脳(all-body brain)」と表現し、脳がないと考えられてきたウニが、実は体全体で脳のような働きをしていることを示唆しています。

またこの結果は「脳といえば頭」という私たちの常識を軽やかに飛び越え、神経系の進化に新しいヒントを与えてくれるかもしれません。

ウニには人間のような脳がないはずなのに、なぜこんな奇妙な仕組みが生まれたのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年11月5日に『Science Advances』にて発表されました。

Single-nucleus profiling highlights the all-brain echinoderm nervous system https://doi.org/10.1126/sciadv.adx7753

人間はずっとウニを誤解していた

人間はずっとウニを誤解していた
人間はずっとウニを誤解していた / Credit:Single-nucleus profiling highlights the all-brain echinoderm nervous system

頭とは何でしょうか。

多くの人にとって「頭=」であり、体の中心で命令を出す司令塔のような存在です。

私たち人間は「頭で考える」ことが当たり前ですが、世界にはその常識を軽々とくつがえす生き物がいます。

その代表がウニです。

トゲトゲした球体の姿を見ても、どこが頭なのか分かりません。

実際、ウニには中央集権的な脳が存在しません。

あるのは口の周囲を取り囲む「神経の輪」と、そこから放射状に伸びる5本の神経の束、そしてその先へ広がる末梢の神経だけです。

つまりウニの神経系は、頭という中心を持たずに全身へと広がっているのです。

けれどもウニは、ちゃんと環境を感じ取り、動き、食べ、身を守ります。

頭も目もないのに、まるで考えているように見える──その不思議さが科学者たちを長年悩ませてきました。

その原因はウニの体の構造にありました。

ウニの殻は石のように硬く、しかも体が小さいため、昔の技術では内部の細胞を損傷なく効率よく取り出すことが非常に難しく、細胞レベルでの詳しい研究があまり進んでいませんでした。

結果として研究者たちは長いあいだ、ウニの神経系を「単純な神経の網」だと考えてきました。

刺激を受けたら反応するだけの、単なる反射装置のような存在――そんなイメージです。

しかしそのイメージは本当なのでしょうか?

誰も調べなかっただけで、本当はウニの体には高度な神経系が存在している可能性はないのでしょうか?

研究チームはこの疑問を確かめるため、最新の細胞解析技術を駆使してウニの“細胞地図”を描くことに挑みました。

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