「感謝」の力は「誰かがやるだろう」に勝てるのか?
誰かに助けてもらったとき、「ありがたい」と感じるのはごく自然なことです。
そして心理学の研究では、この感謝の気持ちには、自分も別の誰かを助けたり、持っているものを分けたりする「向社会的行動」を促す働きがあることが知られています。
つまり感謝は、受け取った親切をその相手に返すだけでなく、その後の他者への親切にもつながる可能性があるのです。
しかし、これまでの研究の多くは、「困っている人がいて、助けられるのは自分だけ」という比較的単純な状況を扱ってきました。
現実には、自分以外にも助けられる人がいる場面が少なくありません。
そこで問題になるのが「傍観者効果(bystander effect)」です。
これは、困っている人を助けられる人が増えるほど、一人ひとりが実際に援助する可能性が下がる現象を指します。
その背景には、「自分がやらなくても誰かが助けるだろう」と考え、一人ひとりが感じる責任が薄まる「責任の分散」などがあると考えられています。
では、感謝によって人を助ける行動が増えるなら、この傍観者効果まで弱くなるのでしょうか。
研究チームはこの疑問を確かめるため、日本のクラウドソーシングサービスを通じて867人を募集しました。
参加者はランダムに、感謝条件、穏やかな感情条件、中立条件の3つに分けられます。
感謝条件では、誰かに助けてもらい心から感謝した経験を5分間思い出して書きます。
そして穏やかな感情条件では、誰かと一緒に過ごしたリラックスした経験を、中立条件では普段の朝の過ごし方を書いてもらいました。
その後、参加者には10ポイントが与えられ、0ポイントの受益者に5ポイントを渡して助けるか、10ポイントをすべて手元に残すかを選んでもらいました。
ポイントは最終的に実際の報酬に反映されるため、援助を選べば自分にもコストが生じます。
さらに重要なのは、その受益者を助けられる潜在的な援助者の数が「1人」「3人」「5人」と変化したことです。
しかも相手を助けるには1人が5ポイントを渡せば十分で、複数人が援助しても余分なポイントは無駄になります。
参加者には、他の人が援助を選んだかどうかも分かりませんでした。
この実験の結果、感謝条件では全体として援助行動が増えていました。
しかし同時に、潜在的な援助者が増えるほど援助する可能性は低下し、傍観者効果も確認されました。
では、「感謝による援助の増加」と「人数が増えるほど助けなくなる傾向」は、実際にはどのような関係にあったのでしょうか。
より詳しい結果を次項で見ていきます。































