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Credit: Lee Alan Dugatkin., Evolution: Education and Outreach(2018)
history archeology

【ソ連の家畜化実験】か弱い個体同士で交配を続けるとどうなるか?

2025.01.25 14:00:45 Saturday

人類の最良のパートナーである犬がオオカミから進化したことはよく知られています。

野生のオオカミは獰猛で攻撃的であり、人に近づくことはしませんが、約2万〜4万年前に一部の比較的大人しいオオカミたちが人間の食べ残しを漁りにやってきました。

その中で人とオオカミの交流が始まり、大人しい性格のオオカミ同士をかけ合わせることで、人懐っこくて穏やかな犬が誕生したのです。

オオカミの「家畜化」による犬の進化は何千年という長いスパンで起こりましたが、旧ソ連の遺伝学者だったドミトリ・ベリャーエフ(1917〜1985)はこう考えました。

「人の手で実験的に交配を操作することで、他の動物でもより短い期間で家畜化できるのではないか?」

こうして始まったのが「家畜化実験」です。

この実験は40年以上にわたって続けられますが、その結果、驚きの生物が誕生します。

The Daring Russian Geneticist Whose Experiments on Silver Foxes Explained Domestication Has Died https://www.scientificamerican.com/article/the-daring-russian-geneticist-whose-experiments-on-silver-foxes-explained/
The silver fox domestication experiment https://doi.org/10.1186/s12052-018-0090-x

ソ連で遺伝学を研究するのは「死」を意味した⁈

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ベリャーエフが描かれたポストカード/ Credit: en.wikipedia

ベリャーエフは1934年に農業大学に入学し、遺伝子の研究を始めます。

しかし当時のソ連で遺伝学の道に進むのは実に危険なことでした。

というのも西洋社会ではその時、親の見た目や性格などは遺伝子によって子に伝わるとする「メンデルの遺伝学」が大きく支持されていました。

ただこれは見方を変えれば「人の運命は遺伝子によって決まる」とも捉えることができ、階級闘争や社会主義的な進歩を掲げるソ連の政治的イデオロギーとは相反していたのです。

そこでソ連の著名な生物学者だったトロフィム・ルイセンコ(1898〜1976)「見た目や性格は遺伝子ではなく、育った環境でいくらでも変わる」と、メンデルの遺伝学に真っ向から反対する学説を唱えます。

そしてこれを大いに支持したのがソ連の最高指導者スターリン(1878〜1953)だったのです。

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Credit: canva(ナゾロジー編集部), ja.wikipedia

こうしてソ連では1920年代から国全体でメンデルの遺伝学を否定し、ルイセンコの理論を支持する「ルイセンコ主義」が急速に拡大します。

その中でメンデルの遺伝学を研究していた学者たちは仕事をクビにされたり、牢獄に収容されたりしたのです。

そのせいで死に至った遺伝学者も多くいました。

ベリャーエフの実の兄で遺伝学者だったニコライもこの時に命を落としています。

ベリャーエフ自身も周りにバレないようこっそりと遺伝子の研究をしていたのですが、1948年にバレて一度クビになります。

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クレムリンで演説するルイセンコ。画面右にスターリン/ Credit: ja.wikipedia

ところが1953年にスターリンが死去したことで、ソ連内での遺伝学の規制が徐々に緩和されていきました。

そしてベリャーエフは1958年、シベリアに新たな遺伝学研究所を創設し、本格的に遺伝子の研究を開始します。

そこで彼が着手したのが「家畜化実験」でした。

では、ベリャーエフが家畜化の実験台に選んだ動物は何だったのでしょうか?

次ページ「家畜化実験」の始まり

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