ウミクワガタって、どんな生き物?
ウミクワガタとは、甲殻類の中でも等脚目(いわゆるワラジムシやダンゴムシの仲間)に属する小さな生物です。
その体長は森にいるクワガタムシとは違って5ミリにも満たないものが多く、一見すると何かの幼虫のようにも見える姿をしています。
この生き物の最大の特徴は、ライフステージによって生活様式がまるで異なることです。
幼生期は魚の体表に寄生して体液を吸い、例えるなら「海の蚊」のような存在として成長します。
けれども、成体になるとまったく別の姿に変わります。
オスの成体は、まるでクワガタムシのように立派な大顎を備えますが、戦うためではなく繁殖のための装備です。
反対にメスの成体には大顎はなく、丸みを帯びたふくらんだ体で卵を抱き続け、孵化を待ちます。
そして驚くべきことに、成体はもはや何も食べず、ただ繁殖行動に特化して生きているのです。

このような特異な生態のため、ウミクワガタは生態学的に非常に興味深い存在とされながらも、その小ささと隠れた生活のために研究が進みにくい種でもありました。
そんな状況の中、研究チームは1995年から2023年にかけて、実に30年近くに及ぶ地道な調査を継続。
調査船やスキューバダイビング、地元漁師からの協力を得て魚体から幼生を採集し、研究室で成体になるまで育てるなど、多様な手法を駆使して種の同定を進めました。
その結果、これまで名前のついていなかった5種が新種として記載され、さらにその他にも日本で初めて確認された種や、100年ぶりに姿を現した種の存在が明らかになったのです。