多細胞化の引き金は物理だった

地球上で最初の多細胞生物がどう生まれたかは、これまで「細胞が集まること」が第一歩とされてきました。
実際、中学時代の理科の先生から「単細胞が少しずつ集まることで多細胞生物が誕生した」という話を直接聞いた記憶がある人もいるでしょう。
大学レベルの教科書でも
単細胞の祖先が分裂したあと、くっついたまま離れず集団を形成し、多細胞化した(コロニー説)
もともと異なる状態の単細胞同士が集まって役割分担をするようになった(シンゾオスポア説)
と「細胞が集まることが最初」という説が主流です。
むしろ「単➔多」の流れなのだから、それ以外に始まる方法を考え付くほうが難しいでしょう。
しかし新たな研究で提唱された説(非対称開始仮説)は、もっと前にキッカケがあったと述べています。
多細胞化のきっかけは、細胞が「集まる」ことではなく、1個の細胞の内部で、分子や小さな細胞内の部品(細胞小器官)の分布が均等ではなくなる「中身の偏り」こそが最初の出発点だった可能性がある、というのです。
偏りは、周囲から押されたり、物理的に圧縮されたりすることでも生じうるとされています。いったん偏りが生じると、細胞のこちら側とあちら側で化学反応の速度が変わり、膜の硬さも一様ではなくなります。
イチゴ大福を上から押しつぶすと、イチゴだけでなくアンコ部分も偏りがでてきて、上も下も右も左も区別できない丸い状態から脱し、中身から上下左右が生まれるのと同じです。
論文では、この説を支持し得る2025年に発表された非常に興味深い実験結果も紹介しています(Rados et al. 2025, Science)。
この研究では古細菌の仲間(ハロアーキア)を、死なない程度に物理的にぎゅっと圧縮します。
すると細胞は分裂を停止しましたが、成長だけはやめませんでした。
その結果、DNAのコピーが内部にいくつも蓄えられ、1個の細胞がどんどんふくらんでいきました。
そしてある大きさに達した瞬間、細胞の膜が内側に向かって伸び始め、多角形のネットワークを形成したのです。
最終的に、中心部には背の高い細い細胞が、周辺部には平たい幅広の細胞が現れることが確認されました。
物理的な力だけで、1種類の単細胞から2種類の異なる細胞が出現し、組織的な多細胞構造に変化したわけです。
単細胞から多細胞への進化は、長年に渡る遺伝変異が積み重なった末の奇跡の大イベントと思われがちですが、押しつぶすという単純な物理的な力だけでも多細胞のような構造が立ち上がりうると示されたのです。
ただ物理で多細胞化が起こるとして、その後の多細胞生命たちの複雑な形にも「物理」の力で届くのでしょうか?































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