哺乳類の体には、なぜ再生能力がないのか?
驚くべきことに、私たち人間を含む哺乳類の体内にも、四肢や臓器を再生するための遺伝子回路が隠されています。実際、サンショウウオやゼブラフィッシュといった、両生類や魚類など哺乳類よりも進化的に古い動物たちは、失われた手足、心臓、さらには脊髄までも再生する能力を備えています。
こうした能力は決して“魔法”ではなく、特定の遺伝子群の働きによって実現されていることが、近年の研究でわかってきました。そして驚くべきことに、これらの遺伝子の多くは哺乳類のゲノム内にも存在しているのです。
つまり、人間を含む哺乳類も、本来は再生能力を持ちうる“設計図”を受け継いでいるということになります。
しかし現在、それらの遺伝子は私たちの体の中でほとんどがオフ(不活性化)にされており、実際に再生は起きません。
ところが、サンショウウオやトカゲなどの再生能力を研究する中で、科学者たちはこうしたオフになった遺伝子を再びオンにすることで、哺乳類でも再生を促すことができる可能性を見出しています。たとえば、2024年の研究では、あるタンパク質の働きを抑えるだけで、失明したマウスの網膜が再生し、視力が回復するという成果も報告されました。
ここで、自然な疑問が浮かびます。
もし私たちの体にも再生能力を引き出すスイッチがあるのなら、なぜそのスイッチは最初から“オン”になっていないのでしょうか?
現在、研究者たちが有力視しているのは、以下の4つの進化的仮説です。これらは単独ではなく、相互に補完し合う複雑な要因として働いたと考えられています。