人間がビタミンCを作れない本当の理由
人間がビタミンCを作れない本当の理由 / Credit:Canva
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人間がビタミンCを作れない本当の理由

2025.08.13 17:30:33 Wednesday

人間は体内でビタミンCを作れない――この「弱点」はこれまで進化の謎とされてきました。

実際、ビタミンC不足は壊血病という致命的な病気を引き起こし、歴史的にも多くの命を奪ってきました。

しかし、中国の復旦大学(Fudan University)およびアメリカのテキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンター(UTSW)で行われた研究により、この一見不利なビタミンC合成能力の喪失が寄生虫から身を守る可能性がマウス実験で示されました。

研究ではビタミンCが欠乏したマウスでは寄生虫の卵がほとんど作られず、病気の重症化や周囲への感染拡大も大きく抑えられたことが示されています。

一見“弱点”とされてきたビタミンC合成不能は、本当に進化上の偶然なのでしょうか?

それとも、感染症の脅威に対抗するための「巧妙な生き残り戦略」だったのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年7月26日に『bioRxiv』にて発表されました。

Loss of vitamin C biosynthesis protects from a parasitic infection https://doi.org/10.1101/2025.07.22.666193

人はなぜビタミンCを作れないのか?

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Credit:Canva

私たち人類を含むサルの仲間やモルモットなど一部の動物は、体内でビタミンC(アスコルビン酸)を合成する能力を失っています。

一方で、ほとんどの哺乳類は肝臓でブドウ糖からビタミンCを作れるため、食事から摂取する必要がありません。

肉食のネコがビタミンCを人間のように植物から補給しなくても生きていけることは、ネコ好きの間では有名でしょう。

しかし人類の場合、約6000万年以上前に遺伝子の変異によってビタミンCの合成に必要な酵素が働かなくなり、食物からビタミンCをとらなければ健康を保てなくなりました。

実際、人がビタミンC不足に陥ると壊血病(コラーゲンが作れず皮膚や歯茎がぼろぼろになる致命的な病気)を発症します。

このような「体内でビタミンCを作れない」という性質は、一見デメリットしかないように思えます。

そしてデメリットしかない変異ならば、そのような変異を起こした個体は自然淘汰によって排除され、人類はビタミンCを自前で合成する能力を保っていたはずです。

ではなぜ進化の中でこのような不利な変化が起きたのでしょうか?

従来は「果物を多く食べるようになったためビタミンC合成能力が不要になり、たまたま失われた」という説が一般的でした。

しかし現在の恵まれた食生活の中でも私たちはしばしばビタミンC不足を起こし健康を害することもあります。

6000万年以上前の先祖たちについても、せっかく持っていたビタミンCの合成能力を失うという進化を起こした理由を「単に果物を沢山食べていた」で済ますのは、やや説明として弱い部分があります。

そこで今回研究者たちは、ビタミンCを体内で合成できなくなるという進化に「何らかの隠れたメリットがあるのではないか?」と考えました。

そこで注目したのが寄生性の病原体との関係でした。

例えば熱帯病の一種である住血吸虫(じゅうけつきゅうちゅう)は、毎年2億5千万人以上を苦しめる深刻な寄生虫病で、血管内に住みついて毎日数百~数千個もの卵を産みつけます。

産まれた卵は宿主の臓器に詰まって炎症を起こし、慢性的な病気(住血吸虫症)につながります。

ですが当の住血吸虫自身はビタミンCを合成できないため、必要なビタミンCはすべて宿主から補給しなければなりません。

そのため研究者たちは、「ビタミンC欠乏が寄生虫の繁殖を妨げ、宿主を守っているのではないか?」という大胆な仮説を立て、検証を行うことにしました。

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