近親交配にはプラスの面がある?
あらゆる生物は皆「自分の遺伝子を多く残したい」という本能を備えています。
実はこの点に関して言えば、近親交配は理にかなっているのです。
その理由を見てみましょう。
まず、父親と母親が交配する際、それぞれが自分のDNAを半分ずつ渡して1セットとし、子供に伝えます。
このとき、父親の遺伝子型をAA、血縁関係にない母親の遺伝子型をBBとすると、生まれた子供は両親から半分ずつ遺伝子を受け継ぐので、遺伝子型はABとなります。
そうなると、子供の遺伝子の半分(50%)は両親と同じになるわけです。
では、父親のパートナーが彼の姉妹だったらどうでしょう?
姉妹であれば、親が同じなのでDNAの半分は元から父親と同じです。
そこで姉妹の遺伝子型をACとすると、生まれた子は父親からA、母親(父親の姉妹)からAかCのいずれかを受け継ぎます。
つまり、子供の遺伝子型はAAかACです。
AAなら父親と子供の遺伝子は100%一致し、ACなら50%一致するので、平均すると子供の遺伝子の75%が父親と同じになるわけです。
よって、単純に自分の遺伝子を多く伝えると考えた場合なら、近親交配は理にかなっていると言えるでしょう。
近親交配の最大のデメリットとは
しかし、ほとんどの生物種が近親交配を採用していないことから、大きなデメリットがあることは明らかです。
中でも最大の問題は、遺伝的多様性が乏しくなることでしょう。
遺伝子の中には、生存に不利に働く有害なものがあります。
こうした遺伝子は通常、表には現れない潜性(劣性)遺伝子として隠れています。
ところが両親が血縁者同士だと、この有害な遺伝子を父親と母親の両方から受け継ぐ可能性が高まり、それが顕性(優性)遺伝子として子供の体に現れやすくなるのです。
そうなると生まれたときから病弱であったり、感染症への耐性が低くなってしまいます。
その不幸を身に受けた最たる実例が、ハプスブルク家の国王だったカルロス2世(1661〜1700)です。
ハプスブルク家は16〜18世紀にヨーロッパ(主にスペイン)で絶大な権力を誇った一族であり、近親婚を過度に推し進めたことで知られます。
そのせいで遺伝的多様性に乏しくなり、病弱な王が増えていきました。特に最も不幸だったのがカルロス2世です。
彼は4歳で王位に就きますが、先天性の病気をいくつも抱えており、体がとても病弱でした。
幼少期から水痘(すいとう)や天然痘などの感染症にかかり、骨の弱さから8歳になるまで歩くことができず、常に下痢や嘔吐に悩まされていました。
また、過度な近親交配は身体の異形化にも繋がっていくと考えられています。実際ハプスブルク一族の多くが大きなしゃくれアゴをしていたことで有名です。
カルロス2世もアゴが大きすぎて咀嚼がうまくできず、いつも涎を垂らしていて、まともに話すことすら困難だったといいます。
さらに30歳になる頃にはすでに老人のように衰え、35歳までに髪がすべて抜け落ちたという。
結局、カルロス2世はハプスブルク家最後のスペイン国王となり、一族も徐々に衰退していくことになります。
このように近親交配は、種を存続させる上では明らかに得策ではありません。