青銅壺に残された「謎の物質」
紀元前6世紀、現在のイタリア南部カンパニア州にあたるパエストゥムは、ギリシア人によって築かれた植民都市でした。
その地に建てられた地下神殿では、8つの青銅製の壺が空の鉄製ベッドの周囲に円を描くように並べられていました。
これらの壺には、かつて粘性のある液体が注がれており、その一部は外側にもこぼれていた痕跡がありました。
考古学者たちは、これが「ハチミツを神への供物として捧げたものではないか」と推測しました。
当時のギリシア神話では、神ゼウスが幼少期にハチミツを食べて育ったという伝承があり、ハチミツは「不死の象徴」とされていました。

しかし1970年代から1980年代にかけて行われた複数の科学分析では、壺の中から糖類は一切検出されず、動植物性の脂肪やロウに近い成分が主体であると報告されてきました。
ところが2019年、オックスフォード大学が壺の残留物を展示のために受け入れたことが転機となりました。
研究チームは残留物の中心部を丁寧に採取し、現代の最先端技術を用いて再調査を開始したのです。