発汗で体温調節できなくなる「湿球温度の限界」を調査
研究チームは今回、人が耐えられる”湿度を合わせた上での気温の上限”を理解するため、「湿球(しつきゅう)温度」に注目しました。
湿球温度とは、温度計の先端(感部)を水で湿らせたガーゼで包んだ状態で測定する温度のことです。
これに対して、ガーゼを用いない、いわゆる普通の状態で計ったものを「乾球温度」といいます。
両者は何が違うのでしょう?
まず熱というのは、水が蒸発するにつれて奪われていきます。
蒸発量が多いほど熱が奪われて、温度も下がっていきますが、反対に、まったく蒸発しなければ、温度はほぼ変わりません。
すると、先端を湿ったガーゼで包んだ湿球温度計では、水の蒸発によって熱が奪われていくので、必然、乾球温度よりも表示される温度が低くなります。
一方で、空気が含むことのできる水蒸気の量には、限度があります。
空気中の水分にまだ余裕があれば、その分だけ水も多く蒸発できますが、空気の水分が限界に達していれば、水は蒸発できません。
たとえば、定員30人のラーメン店に、お客が5人しかいないなら、あと25人も入れますが、すでに25人いれば、残りは5人しか入れませんね。
これを乾球温度と湿球温度に置き換えると、「両者の温度差が大きい=水の蒸発量が多い=湿度が低い」となります。
反対に、「温度差が小さい=蒸発量が少ない=湿度が高い」となり、「温度差がない=まったく蒸発していない=湿度は100%」となります。
要するに、湿球温度とは、周囲の湿度を踏まえた上での温度を示すものです。
では、これをさらに人の体温に置き換えてみましょう。
夏場になると、私たちの体は汗をかくことで、水を蒸発させ(=熱を飛ばし)、体温を調節しています。
しかし、周囲の湿度が高ければ、汗による蒸発量も少なくなるので、体温を容易に下げることができません。
そして、本研究で「湿球温度の上限を調べる」とは、「湿度100%の状態で人が耐えうる温度を調べる」ことを意味します。
これまでの研究によると、湿球温度35℃が人体の耐えられる最高温度とされていました。
これは湿度100%のとき35℃まで、湿度50%のときは46℃まで人体は耐えられるということを意味します。
湿球温度35℃に長時間さらされると、熱中症や死亡にいたるリスクが高まります。
その一方で、この温度は、理論やモデリングに基づいた机上のデータであり、人体を用いた実際のデータではありませんでした。
そこでチームは、被験者を対象とした「湿球温度の上限」を調べる実験を行うことにしました。