熱力学第2法則は宇宙のルールとして完璧なのか?

私たちが暮らす世界には、「エネルギーは勝手に都合よく集まらない」という絶対的なルールがあります。
例えば、一度散らばった熱が勝手に集まってエネルギーに戻ることはありませんし、熱が勝ってに冷たい方から熱い方へは流れることもありません。
自然界では「使えるエネルギーは放っておくと散逸し、減少する」という運命にあります。
この自然の法則は「熱力学第2法則」と呼ばれており、あらゆる物理現象に当てはまると考えられています。
実際、部屋の中に置いていたぬるいお茶がなにもしていないのに「勝手に周りから熱を集めて沸騰した」という経験をしたひとはいないでしょう。
また歴史的には「熱力学第2法則」は永久機関が決して作れない理由として存在し続けています。
永久機関が作れないのは熱力学第2法則のため
昔から、人間は「一度動き始めれば永遠に動き続ける機械」――つまり「永久機関」という夢の装置に憧れてきました。もしそんな機械が実現すれば、エネルギー問題は一気に解決され、環境問題にも劇的な変化が訪れることでしょう。しかし永久機関のエネルギーの流れを詳細に追うと、どの装置もどこかで「使ったエネルギーを再び完全に元通りに取り戻す」過程や「摩擦や抵抗によって散らばったエネルギーをもとに戻す」過程が混入していることがわかります。これは「散らばったエネルギーは勝手に戻らない」という宇宙の法則「熱力学第2法則」と真逆の過程です。散らばったエネルギーを戻すには本来なら追加でエネルギーを投入する必要があり、現実世界ではその役割をガソリンや電気などが担います。つまり永久機関が実現不可能なのは、単に人間の技術が不足しているからではありません。私たちが生きる宇宙そのものが持っている根本的な性質――すなわち「エネルギーは必ず散らばっていく」という絶対的なルールが、それを禁じているからなのです。夢のような永久機関は宇宙の仕組み自体が許さない――これこそが熱力学第2法則の本質であり、この法則がいかに私たちの生活や技術にとって根本的に重要であるかを示しています。
ところがナノやマイクロスケールそして量子の小さな世界では少し奇妙なことが起こります。
このような小さな世界に目を向けると、周囲の熱ゆらぎによってエネルギーがランダムに出入りし、第2法則に反するような「例外的」現象が一時的に起こりうることが知られています。
実はこの極小の世界では、常にランダムな揺れ(熱ゆらぎ)が起きていて時折、本来なら起こり得ない“ラッキー”な振る舞いが起きるためです。
そして2000年代以降に発展した確率論的熱力学やゆらぎの定理によって、このミクロ領域での「第2法則の一時的な破れ」は定量的に理解できるようになりました。
特に1997年に提唱されたジャルジンスキー等式などにより、「仕事量がゼロ以下となる確率には指数的な上限が課される」ことが示されています。
言い換えれば、小さな系では偶然によって一見第2法則を破るような「エネルギーをタダで得られる」可能性はあっても、それを永遠に続けることはできず、ラッキーの起こりやすさには厳密な理論的限界があるのです。
ただ理論的にはそうであっても、実験するまで確定しないのが物理学の世界です。
そこで今回研究チームは、この理論上の限界に迫るほど高い確率で「第2法則に反するように見える」事象を、実験的に再現できるか挑みました。
果たして、理論の限界を超えるような高確率で「第2法則を破ったように見える」現象を実現することは可能なのでしょうか?