サメの歯を持つクジラ?
今回の化石は、2019年6月にオーストラリア南東部・ビクトリア州サーフコーストの浜辺で発見されました。
第一発見者となったのは、地元の学校校長ロス・ダラード(Ross Dullard)氏です。
その後、寄贈を受けたビクトリア博物館の研究チームが詳細に解析した結果、この化石は、現生ヒゲクジラ類の初期系統に属する「マムマロドン科」の未成熟個体であり、既知のどの種とも異なる特徴を備えていることがわかりました。
発見されたのは、部分的な頭骨と耳の骨、中耳の小骨、そして7本の歯です。
推定全長は約2〜2.2メートルで、成長しても3メートル程度と見られています。
現生のヒゲクジラとは異なり、口には肉を切り裂くための二本根の歯が並び、歯の表面には縦方向の稜が走っていました。
これらの歯は、魚や小型の海生哺乳類などを捕らえるのに適した構造です。

さらに、化石の頭骨からはテニスボール大に匹敵する大きな眼窩が確認されました。
大きな目は視覚による捕食に有利で、浅く温暖な海で俊敏に泳ぐ捕食者だったことを示しています。
この特徴は、アザラシなど一部の海獣が持つ“潜水時の視覚適応”と似ており、マムマロドン科の生態に新たな視点を与えます。
解析の結果、この個体は若い亜成体であることが判明しました。
頭骨の骨同士がまだ融合しておらず、歯の摩耗もほとんどありません。
歯髄腔が開いたままであることも、成体に達していない証拠です。
こうした未成熟個体の化石はきわめて珍しく、ヒゲクジラ類の成長過程を知るうえで貴重な資料となります。