「本を読んできた脳」は、話し言葉を分析する能力が高い
これまでの脳科学研究では、「読み書きを学ぶことで、文字を見るときの脳活動が変化する」ことがよく知られてきました。
特に左半球の言語関連領域が、文字に対して選択的に反応するようになることが報告されています。
しかし、研究者たちが注目したのは、もう一歩踏み込んだ点でした。
文字を読む経験は、文字が一切関与しない話し言葉の処理にも影響しているのではないか、という疑問です。
この問いを検証するため、研究チームはブラジル・サンパウロに住む高齢者と若年成人を対象に実験を行いました。
参加者は大きく三つのグループに分けられています。
一つ目は、幼少期に十分な学校教育を受けられず、文章を読んで理解することが難しい「機能的非識字」の高齢者です。
彼らは人生の後半になってようやく読み書きを学び始めたため、アルファベットや簡単な単語は知っていても、読書経験が乏しい人々でした。
二つ目は、子どもの頃から読み書きを学び、長年にわたって読書を続けてきた同年代の高学歴高齢者です。
三つ目は、比較対象として設定された若年の高学歴成人です。
実験では、参加者に物語の音声を聞かせ、あらかじめ指定された単語が聞こえたらボタンを押す課題を行いました。
音声は母語のポルトガル語と、参加者にとって意味が全く分からない日本語の二種類が用意されました。
加えて、単純な音だけを検出する基準課題も実施され、言語処理特有の活動を切り分けています。
重要なのは、日本語の条件では意味理解が不可能な点です。
この課題では、文の内容ではなく、音の連なりから特定の音声パターンを聞き取れるかどうかが問われます。
つまり、話し言葉を「意味」ではなく「音の構造」として処理できるかを調べているのです。
その結果、母語ではどのグループも比較的良好な成績を示しましたが、日本語条件では明確な差が現れました。
文章を読める参加者のほうが、意味の分からない言語でも特定の単語を見つけやすかったのです。
より詳細な違いは、脳画像データから明らかになりました。次項で確認しましょう。
























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