「3人のキリスト実験」を思いついた背景とは?
「イプシランティの3人のキリスト」を主導した研究者は、アメリカの社会心理学者ミルトン・ロキーチ(1918〜1988)です。
ロキーチはある日、文化や政治、芸術を扱うニューヨークの月刊誌『ハーパーズ・マガジン』にて、興味深い記事を目にしました。
そこには自分のことを「聖母マリアだ」と信じ込んでいる2人の女性の対面について記されていたのです。
2人はある精神病院のルームメイトとして同室を割り当てられ、一緒に生活するよう指示されました。
当然ながら最初のうちはお互いに「私がマリアよ」「いや、私こそマリアよ」と主張し合っていましたが、次第に片方の女性が「この人がマリアだとすれば、私は自分のアイデンティティを見誤っているに違いない」と気づき、妄想性疾患から抜け出すことができたのです。
ロキーチはこの記事を読んだことがきっかけで、新たな心理実験の着想を得ました。
彼が焦点を当てたのは、世界史上で最も有名な人物といって過言でない「イエス・キリスト」です。
3人の「自称キリスト」の初対面
そこでロキーチは同じ方法を用いて妄想型統合失調症患者を治療できるかどうかを検証すべく、3人の「自称キリスト」を集めました。
当時ロキーチがいたミシガン州には「我こそキリスト」を名乗る妄想患者が10人ほどいたため、自称キリストを集めるのはさほど難しくありませんでした。
そして1959年7月1日、ロキーチの勤めていた同州のイプシランティ州立病院に3人の”キリスト”が呼ばれます。
1人目は大学を中退した後、統合失調症を患っていた38歳の男性、レオン・ゲイバー。
2人目は20年前まで作家をしていたが、統合失調症を発症して施設に収容されていた58歳の男性、ジョセフ・カッセル。
3人目は認知症を患っており、農業を営んでいた70歳の老人クライド・ベンソンです。
彼らはともに「我こそはイエス・キリストである」と信じて疑っていませんでした。
そしてロキーチは3人を対面させ、同じ病室に寝泊まりさせて、2年間を一緒に過ごさせたのです。
さて、3人はお互いをどう見たのでしょうか?