脳は何倍速まで適切に処理できる?
私たちが音声や映像を理解して記憶するプロセスは、脳にとってかなり複雑な作業です。
一般に、人が話すスピードは1分あたり約150語(英語)と言われています。
一方で、YouTubeなどで2倍速に設定すれば、脳は1分間に300語もの情報を処理しなければならなくなります。
さらに3倍速なら、450語/分という処理に突入します。
しかし、たとえ450語/分という速度であっても、私たちはその言葉を理解できます。
このとき私たちの脳は、まず「エンコーディング(符号化)」という段階で、流れてくる言葉の意味をリアルタイムで捉えようとします。
そして、その意味づけされた情報を一時的に「ワーキングメモリ(作業記憶)」に保持し、さらに重要な情報だけを長期記憶に転送するのです。

ところがこの「ワーキングメモリ」には限界があります。
容量は小さく、処理のスピードも無限ではありません。
結果として、情報が速すぎると、処理が追いつかなくなり、記憶として定着しにくくなるのです。
ウォータールー大学(University of Waterloo)の2025年の研究では、講義ビデオに関する24件の研究をメタ分析として集約しました。
各研究のデザインは様々ですが、おおむね次の通りでした。
被験者をランダムに分けて、あるグループには1倍速(等速)で講義動画を、別のグループには1.25倍、1.5倍、2倍、2.5倍といった速度で再生するというものです。
そしてメタ分析の結果は極めて明快でした。
1.5倍速までであれば、記憶力・理解力の低下はごくわずかでした。
しかし2倍速以上になると、中程度の悪影響が確認され、明確な成績低下が見られました。
たとえば平均点75点のテストでは、再生速度を1.5倍に上げると平均点が2点下がり、再生速度を2.5倍に上げると平均点が17点下がるほどの影響があると分かりました。
倍速再生の「処理負荷」は、確実に私たちの記憶力や理解力にマイナスとなることが、科学的に明らかになっているのです。
では、「倍速再生」に慣れている人なら問題はないのでしょうか。