ある日突然、森が枯れる—ヨーロッパを襲った「トネリコの病」の衝撃

もし、自分が大切に思う森が、ある日突然「病気」で灰色に枯れ果ててしまったら、どんな気持ちになるでしょうか。
子供の頃に遊んだ裏山や故郷の里山が緑を失い朽ちた幹と枝だけしか残っていなかったら、多くの日本人は困惑するでしょう。
実は、イギリスをはじめヨーロッパ各地のトネリコの森では、まさにそのような事態がここ十数年の間に起きているのです。
原因は東アジア原産の真菌(カビ)で、「アッシュ・ダイバック病(トネリコ萎凋病)」と呼ばれる病気を引き起こします。
この病気は感染した木の葉を次第に枯らし、枝や幹を少しずつ衰弱させて、最終的には木を死に至らしめます。
2012年にイギリスで初めて確認されてからというもの、あっという間に各地の森へと広がり、すでに何百万本ものトネリコが命を落としました。
専門家の予測によれば、放置すれば全体の約85%が枯死する恐れもあるという深刻さです。
この病気に対して「完全な免疫」をもつトネリコはほぼ見つかっておらず、ヨーロッパの森は今、大規模な危機を迎えています。
しかし、わずかな希望も存在します。
森を調べていくと、ごく少数ですが、この病気に対して明らかに「強い」個体が見つかったのです。
植林地での過去の調査でも、病気にかかりやすい木と、そうでない木の間には遺伝的な違いがあることが知られていました。
ただ、そのような耐性をもった個体は非常に稀で、多くのトネリコにとって、この病気は依然として致命的な脅威であり続けています。
そこで科学者たちは「もしかしたら、トネリコ自身が進化して、この危機に立ち向かっているのではないか?」と疑問を抱き、調査することにしました。
果たして、森のトネリコたちは本当に自ら進化し、この病気に打ち勝とうとしていたのでしょうか?