26年生きていた教室のペット「ヒモムシ」が長寿研究の正式な対象に
26年生きていた教室のペット「ヒモムシ」が長寿研究の正式な対象に / Credit: Stephen Salpukas
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26年生きていた教室のペット「ヒモムシ」が長寿研究の正式な対象に

2025.12.26 20:00:04 Friday

アメリカのウィリアム・アンド・メアリー大学(W&M)で行われた研究によって、大学の水槽で少なくとも26年間も生き続けているヒモムシが飼育されていた個体として確認され、そのDNA(遺伝情報)分析によりベーセオディスクス・プンネッティ(Baseodiscus punnetti)という種に属することが確認されました。

ヒモムシ(ネメルテア類)の寿命は、年齢が分かる形で報告されたものでは3年程度までしか見当たらなかったため、この個体は従来記録の約9倍という驚異的な長寿です。

研究内容の詳細は2025年12月2日に『Journal of Experimental Zoology Part A: Ecological and Integrative Physiology』にて発表されました。

Baseodiscus the Eldest: First Report of a Decades-Long Lifespan in a Nemertean Species https://doi.org/10.1002/jez.70052

長生きしすぎる「教室のペット」の謎

長生きしすぎる「教室のペット」の謎
長生きしすぎる「教室のペット」の謎 / Credit: Stephen Salpukas

ヒモムシとは、ひも状に細長い海の無脊椎動物です。

くねくねと柔らかい体にはミミズやゴカイのような節(体の区切り)がなく、小さな甲殻類やゴカイなどを捕まえて食べる肉食性の捕食者として海底で暮らしています。

世界中の海に広く分布し、種類によっては淡水や陸上に進出するものもいます。

中には1864年にスコットランドで記録されたとされる全長55メートルという途方もなく長い個体もおり、現生生物では世界最長級の長さです。

ヒモムシは形こそミミズなどの環形動物に似ていますが別の門に属する生物で、種類によっては口とは別の出口から「吻(ふん)」と呼ばれる管状の器官(獲物を捕らえる長い管)を飛び出させるというユニークな捕食方法を持つなど、非常に風変わりな生命グループです。

また体内に骨や貝殻のような硬い組織がなく、魚のウロコや木の年輪のように年齢を推定できる手がかりが残らないため、生まれてから何年生きているのかを知るのは極めて難しい生物でした。

そのため、ヒモムシ類の寿命については長らく謎に包まれてきました。

生物学者たちは「ヒモムシは案外長生きかもしれない」と昔から考えてはいたものの(例えば米国の動物学者W.R.コーは1905年にその可能性に触れています)、実際に年齢が分かる形で報告された最長寿命はせいぜい3年程度にすぎませんでした。

要するに、「ヒモムシは数十年も生きられるのではないか?」という仮説はあっても、それを裏付ける証拠はこれまで一つも見つかっていなかったのです。

そんな中で、アメリカの大学の海洋水槽に一匹だけ、やけに長く居座り続けているヒモムシがいました。

1990年代後半にワシントン大学の施設周辺で採集され、1998年までにはノースカロライナ大学の海水水槽に入り、その後は水槽ごとメイン州、さらにバージニア州へと引っ越していきました。

この個体は特別な実験に使われていたわけではなく、主に授業のデモンストレーションで学生に見せる「クラスのペット)」として毎年水槽から出されていたといいます。

小学校のクラス内でメダカなどを飼っていたのと近い感覚と言えるでしょう。

実際、研究者たちはこの虫に「B」という愛称までつけてかわいがっていました。

しかし、長年つきあっていると、だんだん違和感も見えてきます。

「そういえば、この子はもう20年以上いる気がする」「そろそろ年齢をちゃんと数えたほうがよいのではないか」――そんな問いかけを、元学生にされたのがきっかけでした。

そこで今回研究者たちは、このヒモムシがいったいどの種で、いつごろから水槽暮らしをしてきたのかを、記録とDNAの両方から正式に調べることにしました。

次ページ古い記録を掘り起こしDNAも分析

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