ある「木」が今急速な進化を起こしていることが判明
ある「木」が今急速な進化を起こしていることが判明 / Credit:Canva
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ある「木」が今急速な進化を起こしていることが判明 (2/3)

2025.07.01 21:00:58 Tuesday

前ページある日突然、森が枯れる—ヨーロッパを襲った「トネリコの病」の衝撃

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木々の遺伝子が今まさに動いている

木々の遺伝子が今まさに動いている
木々の遺伝子が今まさに動いている / Credit:Canva

森のトネリコたちは本当に進化していたのか?

この謎を解明するため研究者たちはまず、イギリス・サリー州にあるマーデンパークという古い森に向かいました。

この森には、病気が発生する以前から育っていた古い世代のトネリコと、病気が拡がった後に新しく生えてきた若い世代のトネリコが混在していました。

研究チームは、両方の世代のトネリコから葉や枝などのサンプルを採取してDNAを抽出し、ゲノム解析を行いました。

特に注目したのは、過去の研究で「病気への強さ」に関係すると指摘されていた遺伝子の小さな変異でした。

トネリコのゲノム中には、耐病性を高める方向に働く変異や、逆に感受性を高めてしまう変異が数千箇所もあることが知られており、研究者らはそれらの部位(遺伝子座)のDNA配列の違いに着目したのです。

結果、若い世代の木では、それら有用な変異(耐性を高める変異)の頻度が、親世代に比べて着実に上昇していることがわかりました。

一つひとつの変化はごく「ささやかな遺伝子頻度のずれ」に過ぎませんが、それが積み重なったことで若木世代全体としてより高い耐性遺伝子のスコアを示したのです。

(※全ゲノム解析の結果、ゲノム中の一塩基だけが変化した小さな変異(SNP)が7985箇所存在することが示されました。)

言い換えれば、森に自然更新(実生からの再生)した新世代のトネリコは、病気流行前から生えていた古い世代よりも遺伝的に病原菌へ強く抵抗できる傾向が確認されました。

これは自然選択が働いた痕跡にほかなりません。

ゲノム解析を用いたシミュレーションモデルによる推定では、新世代苗木の約13%が淘汰されるほどの強い選択が働いたと示されました。

研究チームはこの現象を弱い個体は姿を消し、最も適応した者のみが生き残る(適者生存)という進化の過程が目の前で進行しているという『適者生存』のプロセスにあたると指摘しています。

また、この進化は何世代もかかるのではなく、「たった一世代」という非常に短期間で数千もの遺伝子が同時に小さく変化することで実現しているということも明らかになりました。
こうして、トネリコの森は自らの遺伝子を駆使して、病気という危機に立ち向かっていることが明確になったのです。

しかし「たった一世代」で数千の遺伝子が変異するとはどういうことなのでしょうか?

次ページ進化の教科書が現実になった—科学者が目撃した「適者生存」の瞬間

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