人類が好む匂いベスト3が判明!ワーストも
今回の研究は、先住の狩猟採集民から伝統的な農耕民族、現代の都市生活者まで、10の異なる文化集団を対象に、10タイプの異なる香りを嗅いでもらいました。
研究チームは、タイ、メキシコ、エクアドル、アメリカなどに直接出向き、砂漠、熱帯雨林、高地気候、沿岸地域、都市部といったあらゆる環境に住む人々からデータを収集。
調査には、タイ・マレー半島に住むセマク・ベリ(Semaq Beri)族の狩猟採集民、エクアドルのチャチ(Chachi)族の自給園芸・農耕民、ニューヨークの都市生活者など、合計280名以上が参加しています。
参加者には、ランダムに並べられた10本のペン型の匂い装置を提示し、それぞれの匂いを嗅いで、最も心地よいものから、最も不快なものまでランク付けしてもらいました。
その結果、個人間に好みの差はあったものの、文化間では好みの匂いに強い一致が見られたのです。
最も心地よいとされた匂い第1位は「バニリン(バニラエッセンスの主成分)」で、第2位が「酪酸エチル(桃などフルーツ系の香り)」、第3位が「リナロール(花の香り)」でした。
これらの香りは芳香剤や食べ物の添加によく利用される印象がありますが、きちんと理由があったようです。
反対に、最も不快とされた匂いは「イソ吉草酸(3-メチルブタン酸)」で、これはチーズや豆乳、汗などに含まれる他、足の裏の匂いの原因物質とされる刺激的な匂い分子です。
匂いの好みには「進化的な理由」がある?
この結果について、神経科学者で研究主任のアルティン・アルシャミアン(Artin Arshamian)氏は「文化の違いが匂いの好みに与える影響はごくわずかで、逆に、人類の匂いの好みには、すべての文化圏でかなりの一致が確認できた」と話します。
また、文化ごとに匂いの順位が異なる場合、好みの相違を説明する要因としては、個人の嗜好が54%、匂い分子の構造が40%で、文化の違いはわずか6%にとどまりました。
いわば、匂いの好みは「文化的伝統の反映ではなく、個人の好みや化学物質の構造に起因する」と言えます。
研究者は「まとめると、人間の嗅覚が、なんらかの普遍的な原理によって強く制約されていることが示唆される」と指摘します。
つまり、人類が進化する中で、種の生存や繁栄にとって有利な匂い、あるいは不利な匂いを嗅ぎ分けるメカニズムが作られたのかもしれません。
たとえば、腐った食べ物は致命的になる恐れがあるので、食べる前に匂いで判別する必要があるでしょう。
「もしそうだとすれば、今回の発見は、匂いの知覚に関する進化的な基盤を解明するのに役立つだろう」と述べています。
チームは次のステップとして、特定の匂いを嗅いだときに脳内で起こる反応を調べて、人類に普遍的な嗅覚の秘密を明らかにしていく予定です。