脳オルガノイドの限界と挑戦

人間のミニ臓器を実験室で培養して再現する「オルガノイド」研究は近年盛んです。
特に脳オルガノイドはヒトの幹細胞から育てた人工培養脳とでもいうべき存在です。
ただ従来の脳オルガノイドは主に大脳新皮質など脳の一領域だけを培養するものでした。例えば大脳(特に大脳皮質)のみを対象としたオルガノイドが主に研究されてきました。
しかし実際の人間の脳は、大脳・中脳・後脳といった複数の部位が胎児期から密接に連携して発達します。
(※後脳は小脳と橋と延髄のあたりをまとめた領域です)
また母親の胎内で胎児の脳は神経組織と血管網も同時に成長し、お互いに影響を与え合って複雑な「本物の脳」を形作ることがわかっています。
にもかかわらず、これまでの脳オルガノイドモデルでは複数の脳領域をまとめて再現し、なおかつ本格的な血管ネットワークを備えた例はありませんでした。
脳全体の発達や疾患を理解するには、複数の領域が相互作用するモデルがどうしても必要です。
そこで研究チームは、「複数の脳領域を一つにまとめ、さらに血管も備えたミニ脳」を作り出すことで、より人間の脳に近いモデルを実現しようとしました。
目的は、ヒト胎児の脳発達を丸ごと再現することで、発達障害や脳疾患の原因解明や治療法開発に役立つプラットフォームを作ることでした。
生身の人間の胎児脳を直接実験素材にすることはできませんが、試験管内に「もう一つの人間の脳」を育てることができれば、疑似的な脳実験が可能になります。