高温で精子ができなくなるメカニズムが判明!
哺乳類のオスの多くにとって「陰嚢」は弱点になっています。
陰嚢は精子を生産するための内蔵であり、本来なら体内に存在していることが理想です。それが体外に飛び出しているため、弱点となってしまっているのです。
ではなぜ陰嚢は体外に配置されているのでしょうか?
最大の理由は、精子の製造や貯蔵が、体温よりも低い温度でなければ上手くできないからです。
そのため哺乳類のオスの多くは陰嚢を外気に晒すような位置に配置し、熱さましを行っているのです。
目だった陰嚢が存在しないイルカですら、精巣に向かう動脈の周りを冷えた静脈で取り囲む構造をしており、熱さましに余念がありません。
しかし高温が精子生産をどのようにして邪魔するのかは、詳しくわかっていませんでした。
そこで今回、基礎生物学研究所の研究者たちは、生後4日目のオスマウスから精巣を摘出し、厳密に温度管理された体外環境で培養することにしました。
すると、精子製造過程の複数の段階で、高温が悪影響を与えていることが判明します。
例えば37~38℃で精母細胞での減数分裂の進行が邪魔され、36~37℃では減数分裂の完了が邪魔され、35~36℃では精子細胞の成熟が妨害されました。
これらの結果は、精子形成の各過程が1~2℃の変動でも大きな影響を受けることを示します。
特に37~38℃になると精子生成において必須となる細胞分裂(減数分裂)時に、極めて重大な染色体異常が発生することが判明します。
精巣が体の深部温度に近い37~38℃に熱せられると、精母細胞において染色体の対合(ペア形成)ができなくなったり、間違った複数の染色体と対合してしまった枝状の染色体が現れる様子が確認されました。
そして異常な染色体をもった細胞は、体内のチェック機能によって「修正不能なエラーを抱えた失敗作」と認識され「細胞死(アポトーシス)」が命じられていました。
つまり、高温は精子の元となる細胞で染色体異常の原因となっていたのです。
しかし、いったいどんな仕組みで染色体異常が起きていたのでしょうか?
答えは生物進化も絡んだ「遺伝仕組み変えの本質」にかかわる部分にありました。