眠りを邪魔する“静かな病気”と、その意外な改善法
イビキがうるさい、日中に眠気が強い、そんな人は「睡眠時無呼吸症候群」という病気の可能性があります。
この病気は、眠っている間にのどの奥がふさがってしまい、呼吸が何度も止まってしまいます。息が止まると血液の酸素が減り、脳が何度も目を覚ますため、熟睡できません。その結果、日中に強い眠気が出たり、集中力が落ちたり、さらには高血圧や心臓病の危険も高まります。
治療としては、就寝中にマスクをつけて空気を送り込み、気道を開いたまま保つ「CPAP療法」がよく使われます。ただこれは効果は高いのですが、気軽に利用できるものではなく、マスクのつけ心地や機械の音が気になって、続けられない人も多いのです。
機材の貸出が必要なため、そもそも軽症や中等度の場合はCPAPが処方されないこともあります。
こうした事情から、もっと手軽で続けやすい方法が求められてきました。
近年の研究では、眠っている間に気道がふさがるのを防ぐため、のどや口周りの筋肉を鍛える方法が提案されています。
その中で注目を集めたのが、オーストラリアの先住民が伝統的に演奏するディジュリドゥという管楽器が、吹く動作でのどの奥の筋肉を強く使うため、睡眠時無呼吸症候群の改善に効果が見られるという報告です。
ディジュリドゥは珍しい楽器ですが、この演奏者の中に「以前よりイビキが減った」「眠りが深くなった」と話す人がいるこを知った医師が広く調査してみたところ、睡眠時無呼吸症候群の改善と相関が発見されたというものです。

同様に、口やのどの筋肉を鍛える体操でも改善が見られています。いずれも、筋肉を強化して眠っている間に気道がつぶれにくくすることが狙いです。
そこでインドの研究チームが同様の効果があるのではないかと目をつけたのが、古くから宗教儀式や合図に使われてきた「法螺貝」です。
強く息を吹き込むこの動作は、のどから胸の奥までの呼吸筋を一度に使うため、筋力アップの効果が期待できます。さらに、音を出すときの振動が鼻やのどに伝わり、呼吸に関わる部分の働きを高める可能性もあります。
今回の研究では、中等度の患者38人をランダムに2つのグループに分け、一方は法螺貝を吹き、もう一方は深呼吸を6か月間続けてもらいました。法螺貝グループは、15分間の練習を週5日、自宅で行い、毎月通院して吹き方の確認を受けました。
眠気の強さ、睡眠の質、そして睡眠中に呼吸が止まる回数を調べ、開始前と6か月後を比べました。こうして、「伝統楽器での呼吸トレーニング」が本当に役に立つのかを確かめる挑戦が始まったのです。