日本人の腸内は「高所得国型」?世界比較で見えた全体像
37カ国の腸内マイクロバイオームデータを用いて主成分分析を行ったところ、日本人の腸内細菌構成は、欧米諸国などの高所得国の集団が含まれるクラスターに位置づけられました。
このグループの特徴は、バクテロイデス(Bacteroides)属が多く、プリボテラ(Prevotella)属が少ないという構成です。
日本人も同様の傾向を示しており、腸内細菌の全体像としては「高所得国型」に近いことがわかりました。
しかし、ここで終わりではありません。
国際比較に基づく統計解析を進めると、日本人に有意に多い、あるいは少ない細菌属が多数見つかりました。
その中でも特に際立っていたのが、ビフィズス菌(Bifidobacterium属)の豊富さです。
ビフィズス菌といえば、整腸作用で知られる“善玉菌”の代表格です。

なぜ日本人にはこれが多いのでしょうか。
解析の結果、背景にあるのは「遺伝」と「食習慣」の組み合わせであることが示唆されました。
多くの日本人は、成人期になると乳糖を分解する酵素の働きが弱くなります。
そのため、牛乳に含まれる乳糖の一部が小腸で分解されず、大腸まで届きます。
この乳糖がビフィズス菌の栄養源となり、腸内での増殖を促している可能性が高いのです。
一方、多くの欧米人は成人後も乳糖を分解できるため、牛乳を飲んでも同じような増殖は起こりにくいと考えられます。
さらに興味深いのは、日本では第二次世界大戦後に学校給食などを通じて牛乳摂取が増加したという歴史的背景です。
「乳糖を分解しにくい遺伝的体質」と「近代以降に増えた牛乳摂取」という組み合わせが、現在の日本人のビフィズス菌の多さを形づくった可能性が示されています。
海藻を分解できる腸内細菌?食文化が刻んだサイン
もう一つ、日本人の腸内環境を象徴する特徴があります。
それはノリやワカメなどの海藻に含まれる多糖類を分解する酵素遺伝子が、日本人の約90%以上から検出されたことです。
海藻の多糖は、野菜や穀物など陸上植物の多糖とは化学構造が大きく異なります。そのため、分解には専用の酵素が必要です。
この酵素遺伝子は、主に海藻を常食とする東アジア人集団で高頻度に見られ、欧米諸国ではほとんど検出されませんでした。
つまり、日本人の腸内細菌は、長年の食文化に適応してきた可能性が高いのです。
私たちが何世代にもわたって食べ続けてきたものが、腸内細菌の遺伝子レベルにまで影響を与えていると考えると、驚かされます。
さらに研究では、日本人集団内での個人差も解析されました。
年齢によって増減する細菌が存在し、男性ではプリボテラが多く、女性ではエガセラ(Eggerthella)が多い傾向が示されました。
また、BMIが高い人ほどアシダミノコッカス(Acidaminococcus)やメガスファエラ(Megasphaera)が多いことも確認されました。
日本人の腸内環境は、国際的な位置づけだけでなく、年齢や性別、体格といった基本的な個人差とも深く結びついているのです。
腸内細菌は「日本人らしさ」を映す鏡
今回の研究は、日本人の腸内マイクロバイオームを、世界規模のデータの中で初めて体系的に位置づけた点に大きな意義があります。
日本人の腸内細菌は、高所得国型の構成を持ちながらも、ビフィズス菌の豊富さや海藻分解酵素の高頻度といった独自の特徴を備えていました。
そしてその背景には、遺伝的体質と食文化の相互作用があると考えられます。
腸内細菌は単なる「お腹の中の住人」ではなく、私たちの歴史や生活様式を映し出す存在なのかもしれません。
今後、このような大規模データ解析が進めば、日本人に最適化された予防医学や個別化医療の実現にもつながることが期待されます。
私たちの体の中には、想像以上に“日本らしさ”が刻まれているのです。























