フラッシュバックする「トラウマ記憶」の治療にはテトリスが効果的
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の代表的な症状の一つが「突然よみがえるトラウマ記憶」です。
衝撃的な出来事の映像が、本人の意思とは関係なく急に頭に浮かんでくる状態を指します。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、医療従事者はこうした場面に繰り返し直面しました。
英国の国民保健サービス(NHS)職員では、PTSDの有病率がパンデミック前の13%から、流行のピーク時には25%まで増えたと報告されています。
彼らは、「蘇生に失敗した患者の姿」や、「家族が悲しみに崩れ落ちる場面」が突如フラッシュバックすることに苦しんできました。
多くの人が、今も同じような状況の中で働き続けているため、トラウマからの回復が追いついていません。
従来のPTSD治療は有効ですが、専門家による複数回のセッションが必要で、トラウマ体験を詳しく言葉で語る負担もあります。
そこで研究チームは、より短時間で実施できるデジタル介入「Imagery Competing Task Intervention(ICTI)」を開発しました。
ICTIの手順はシンプルです。
まず参加者は、自分のトラウマ体験の中から特につらい場面を選び、その映像を数十秒ほど頭に思い浮かべます。
詳しく説明したり、長く思い出したりする必要はありません。
大事なのは、記憶を一度「再び動き出した状態」にすることです。
次に、研究者は「mental rotation(メンタルローテーション)」という認知スキルを教えます。
これは、頭の中で物体を回転させる力のことです。
L字型のブロックを頭の中で90度回したらどの向きになるか、実際には動かさずに想像するようなイメージです。
最後に、参加者はこのメンタルローテーションを意識しながら、テトリスを約20分間プレイします。
ふつうのようにスピードを競うのではなく、「ブロックをどの向きに回せば隙間に入るか」をゆっくり考えながら操作することが求められました。
なぜテトリスなのかというと、トラウマ記憶もテトリスも、どちらも「視覚イメージ」と「空間の把握」を強く使うからです。
脳の中で視空間情報を処理するワーキングメモリには容量の限界があります。
そこで、一度よみがえらせたトラウマ映像のすぐ後に、視空間的な負荷の高いテトリスを行うことで、記憶が再び固定し直される過程に割り込めるのではないか、と考えられました。
この仮説を確かめるため、研究チームは英国の医療従事者99人を対象にランダム化比較試験を行いました。
全員が仕事でトラウマとなる出来事を経験し、直近1週間にフラッシュバックが3回以上あった人たちです。
参加者は三つのグループに分けられました。
ICTIを受けるグループ、モーツァルトに関する短いポッドキャストを聞いたあとモーツァルトの音楽を20分聴くアクティブコントロール群、そして通常どおりのケアや治療を続ける通常治療群です。
その結果、4週間後のフラッシュバックの回数は、ICTI群では中央値が0.5回、対照となった二つのグループではどちらも5回前後でした。
つまり、ICTI群ではフラッシュバックが約10分の1になっていたことになります。
なぜこれほどの効果が表れたのか、詳細を見てみましょう。



























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