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psychology

先延ばし癖のある人は、実は『隠れた才能』を持っている可能性

2026.02.21 12:00:40 Saturday

締め切りが目の前にあるのに、急に部屋の模様替えを始めたり、普段は見向きもしない歴史の資料を読み耽ってしまったり。

こうした行動をとる人の多くは、単に「意志が弱い」と思われがちです。

従来、心理学の世界では、先延ばしは不安やストレスを回避するための「不適応な行動」として捉えられてきました

しかし、私たちがつい作業を遅らせてしまう裏側には、単なる怠慢や回避ではない、知的なメカニズムが隠れているのかもしれません。

オーストラリアのロイヤル・メルボルン工科大学(RMIT University)やチャールズ・スタウト大学(Charles Sturt University)の研究チームは、先延ばしをする人々が持つ「ある特性」に注目しました。

責任著者のローレン・L・サリング(Lauren L. Saling)博士らによると、先延ばしをしがちな人は、大人が得意とする「効率重視の思考」ではなく、子供が発揮する可能性を広く探る「探索型の思考」傾向があるというのです。

大人は通常、過去の経験から得た正解をなぞることで効率よく物事を進めますが、子供は一見無駄に見える試行錯誤を繰り返し、新しい発見を導き出します。

この研究は、先延ばしという行動が、実はこうした「探索的で創造的な脳の戦略」の代償として現れている可能性があるというのです。

この研究の詳細は、2025年8月付けで科学雑誌『New Ideas in Psychology』に掲載されています。

Exploratory tendencies explain task delay in procrastination https://doi.org/10.1016/j.newideapsych.2025.101190

なぜ「すぐやらない」のか? 脳が選んだ意外な戦略

意外に思う人もいるかも知れませんが、実は以前から心理学の研究では先延ばしをする人が、そうでない人よりも創造的なパフォーマンスを発揮することがあるということが報告されていました。

この報告について、一部の研究者は、「先延ばしの時間がアイデアの熟成に役立つ場合もあるのではないか」と予想を述べていましたが、その関連性ははっきりしていませんでした。

そこで今回の研究チームは、先延ばしをする人が他の人よりも幅広く可能性を探る「探索的学習」の傾向を持つのではないかという仮説を立て、これを実験的に検証しようと考えたのです。

この「探索的学習」とは、目の前の正解をすぐに出すことよりも、一見無駄に見える選択肢も含めて多角的に情報を集める学び方を指します。

研究者は、先延ばしをしてしまう人が、実は複雑な課題を解く際に有利に働く「特有の思考回路」を駆使している可能性を探るため、今回の実験を開始したのです。

「子供の柔軟性」を持つ先延ばし民の脳

私たちは大人になるにつれ、これまでの経験から「効率の良いやり方」を優先するようになります。

これを専門用語で「活用型(Exploitative)」の学習と呼び、既知の情報を利用して素早く成果を出すことに特化しています。

一方で、幼い子供たちは、たとえ時間がかかっても様々な仮説を立て、実験を繰り返す「探索型(Exploratory)」の学習を得意としています。

研究チームは、先延ばしをする人々が、この子供のような「探索型」の姿勢を大人になっても色濃く残しているのではないかと考えました。

この仮説を確かめるため、研究では「ブリケット・タスク(Blicket task)」と呼ばれる、特殊なパズルを用いた実験が行われました。

この課題は、複数のブロックが「ブリケット探知器」という装置に載せられたときの反応を、参加者が動画で見て学び、「どのブロックがブリケットか」というルールを推理するものです。

ちなみに研究者によるとブリケットという名前自体には意味がなく、パズルのルールを参加者に気づかれないよう作った造語だという。

この実験の面白いところは、単にビデオを眺めるだけでなく、画面の中の限られた証拠から「目に見えないルール」を導き出さなければならない点にあります

この実験における正解の鍵は、「ブリケットを2つ同時に載せたときだけ装置は光る」という、「連言規則(Conjunctive rule)」に気づくかどうかにあります。

※連言規則とは、論理学(あるいはコンピュータの回路)で言うところの「AND(論理積)」のこと。AかつBのときのみ真になる。

例えば、フェーズ1の実験では、茶色・黒・緑のブロックを「ブリケット探知器」に乗せた様子をモニターで参加者に見せます。

最初は、茶色・黒・緑のブロックをそれぞれ単独で載せますが、装置は光りません。

その後、茶色と黒のブロックが同時に載ったときにだけ装置が光る様子が映し出されます。これにより、装置の作動には「2つのブリケットが揃うこと(AND条件)」が必要であると同時に、茶色と黒がブリケットであることが判明します

次に、すでに正解だとわかっている黒色と、緑色を組み合わせる映像が流れます。もし緑色もブリケットなら装置は光るはずですが、実際には光りません 。ここで、観察者は「緑色はハズレである」という論理的な結論に到達できるのです。

このように、全てのブロックの正体が確定するように設計されたフェーズ1に対し、続くフェーズ2ではあえて「証拠が足りない状況」が作り出されます

「ブリケット探知器」のイメージ/Credit:OpenAI

フェーズ2では、赤、黄、青の3つのブロックを装置に載せる様子を観察します。ここではまず赤と青が単独で載せられますが装置は光りません。

そして「赤と黄色を同時に載せると装置が光る」様子が映し出され、この2つがブリケットであることが確定します。

しかし、青色のブロックについては「単独で載せて光らない」シーンしか出てきません。

そしてそれぞれのフェーズの最後で、参加者は登場した3つのブロックそれぞれについて、以下の3択から1つを選びます

  1. ブリケットである

  2. ブリケットではない

  3. 判定にはもっと情報が必要である

効率を重視する人のは、フェーズ2で「青は光らなかったからハズレだ」と即断してしまいがちです。

ところが、「2つ揃わないと光らない」というルールを正しく理解していれば、青が単独で光らなくても、それがハズレである証拠にはならないことに気づきます。

青が正解であっても、相方がいないために光らなかっただけという可能性が残されているからです。

このフェーズ2で青のブロックに対する論理的に正しい答えは「判定にはもっと情報が必要」という保留の選択肢です。

こうした実験を大人と子どもに対して行うと、効率を求める大人は手掛かりが少ない段階で結論を急ぎやすい一方、探索型の子どもは可能性を広く残して考える傾向があるとされます。

次ページ先延ばし癖のある人の「探索能力」と「創造性」

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