なぜ一部の家庭では男の子ばかり・女の子ばかりなのか?

「うちの家系は男の子ばかり」「うちは姉妹だけ」という話は、誰しも一度は耳にしたことがあるでしょう。
親戚や友達を見渡すと、性別が極端に偏った兄弟姉妹を持つ家庭は決して珍しくありません。
「たまたま偶然が続いただけ」と考える人もいますが、実は昔から「何か科学的な理由があるのではないか?」という疑問が議論されてきました。
そもそも、生物学の教科書では「赤ちゃんの性別は父親の精子によって決まる」と説明されています。
精子には性別を決定する染色体が入っており、それはX染色体かY染色体のどちらかです。
精子はこのXとYを半々の確率で含むため、男女が生まれる確率は各妊娠ごとに常に50%だと考えられてきました。
例えるなら、完全に公平なコイントスを毎回しているようなものです。
しかし現実には、なぜか性別が偏っている家庭が多く見られるのです。
その理由を説明するために、これまで科学者たちはさまざまな説を唱えてきました。
例えば、
「美男美女のカップルからは女の子が多く生まれやすい」
「背が高く経済的に豊かな夫婦には男の子が多い」
といった、親の特徴に注目した興味深い説があります。
【コラム】美男美女や豊かさは子供の性別に関係するのか?
「美男美女のカップルからは女の子が生まれやすい」「背が高く経済的に豊かな夫婦には男の子が多い」という仮説は全くのデタラメかと言えば、一応生物学的な根拠に基づいた仮説となっています。その根拠とは「生物は状況に応じて、子孫を残しやすい性別(オスまたはメス)を産み分ける傾向が進化している可能性がある。」というものです。
具体的に言えば美男美女のカップルが女の子を産みやすいという説は、「女性の美しさは男性に比べてより強く繁殖成功に直結する」と考えられるため、美しい両親は自分の魅力的な遺伝子を効果的に次世代に伝えるために女児を多く産むよう進化しているかもしれない、という仮説に基づいています。一方、背が高く経済的に豊かな夫婦が男の子を産みやすいという説は、社会的地位や経済力が繁殖成功により大きなメリットを与える男性に有利であり、親がその優位性を次世代に引き継ぐために男児を産む傾向を進化させた可能性がある、という考えに基づいています。ただこれらの説は、一見合理的なように思えますが、あくまで進化生物学における理論的仮説の段階であり、人間において裏付けがあるわけではありません。
また、生物学的に「受精時の母体の環境が性別を左右する」という説も長年議論されています。
これは、受精の瞬間に母親の体内環境(例えば膣内の酸性度や体温、排卵のタイミング)が影響して、X染色体かY染色体のどちらかを持つ精子の受精率が変化するという考え方です。
しかし、こうした説は一見もっともらしく聞こえますが、大規模なデータ分析や疫学調査で明確に裏付けられたことはありませんでした。
また、出生時の性別に関係する遺伝的要因についても、十分な研究は行われていませんでした。
そこで今回、ハーバード大学の研究チームは大規模なデータを活用し、この「家庭ごとの性別の偏り」の真相に本格的に挑むことにしたのです。
果たして、性別の偏りは本当に単なる偶然に過ぎないのか、それとも何か科学的な根拠があるのか——?
そして、もし科学的な理由があるとすれば、それはいったいどのようなメカニズムで起きているのでしょうか?