何か嫌な感じがすることには科学的根拠があるかもしれない
何か嫌な感じがすることには科学的根拠があるかもしれない / Credit:canva
biology

「ここ、嫌な感じがする」生物は死がある場所を無意識に避ける事ができる

2024.11.21 Thursday

理由はわからないけれど、なぜか嫌な感じがする。

この建物には入らない方が良いのではないか。

そう感じた山の中の廃墟に、実は死体が眠っていた。

ホラー作品にはよくそんなシーンが登場しますが、実際その場所に死体があると、見つけていなくても生物はその事実を感じ取り回避することがわかっています。

なぜ生物は、視覚的に認識していない死体の存在を感じ取ることができるのでしょうか。

この嫌悪感には、死体から発せられる「プトレシン」という化学物質が関与しています。

2021年12月に『Behavioural Processes』にて掲載された、京都大学野生動物研究センターの研究では、霊長類のチンパンジーを使って、死の臭いの存在について検証しています。

The Smell Of Death Has A Strange Influence On Human Behavior https://www.iflscience.com/the-smell-of-death-has-a-strange-influence-on-human-behavior-76452 Putrescine–a chemical cue of death—is aversive to chimpanzees https://www.wrc.kyoto-u.ac.jp/ja/publications/JamesRAnderson/Anderson2021-bp.html
Putrescine–a chemical cue of death—is aversive to chimpanzees https://doi.org/10.1016/j.beproc.2021.104538

なんとなく嫌な感じがする、の正体

たまたま訪れた場所で、なぜかわからないけれど、これ以上近づかない方が良いような気がする、そんなシチュエーションはホラー作品でよく描かれます。

そして、そんな場所の近くには死体が転がっていたりします。

これはホラー演出として鉄板ですが、実は現実で同じようなシチュエーションがあった場合、生物は同じような反応をする可能性があるのです。

つまり、近くに死体があるとその事実を知らなくても、「ここ、なんだか嫌な感じがする」と回避する可能性が高いのです。

このような、まだ視覚的に死体を認識していないにも関わらず、無意識に嫌悪感を覚えてその場所を避けようとする行動には、実は科学的根拠があります。

まずそもそも死体が近くにあるとき、生物は恐怖や嫌悪を感じます。これは危険な状況を回避するために、多くの動物種に本能的に備わっている行動です。

野生下においては、他個体の死体の近くには捕食者がいたり、病死した死体が病気の感染源になる可能性があるため、むやみに死体に近づくという行為は、自分も命を落とすリスクに繋がります。

しかし見て避けるのはわかりますが、見つける前から避けようとするというのはどういう理屈なのでしょう?

ここには、死体から発せられる臭い(死臭)が関与していると考えられています。

死体からは、「プトレシン」という独特な腐敗臭が発生しています。

プトレシンは、生物の死後にタンパク質が分解される過程で生成される化合物で、腐敗臭や死臭の主要な原因となる物質の一つです。

プトレシンの臭いは、死体に産卵したり、死体を食べたりする昆虫などにとっては誘引物質となり、一般的な動物にとっては、忌避反応を引き起こすとされています。

つまり、見えていなくても生物はプトレシンを感じ取ると、その場所を避けようとするのです。

とはいえ、プトレシンは不快な臭いの原因物質なので、こうした説明だと悪臭がするから避けるだけじゃないの? と思う人もいるかも知れません。

しかし、ここにはもう少し興味深い報告があるのです。

次ページ「プトレシン」は臭いとして感じ取れなくても、生物に死体への嫌悪感を引き起こす

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