「プトレシン」は臭いとして感じ取れなくても、生物に死体への嫌悪感を引き起こす
京都大学野生動物研究センターの研究チームは、2021年に実際にこの現象を人間に最も近い霊長類であるチンパンジーを使って、科学的に証明しています。
研究では、チンパンジーがプトレシンの臭いに忌避反応を示すか、臭いと一緒に死体の存在がある場合は、その反応が強化されるのかを検証しました。
はじめに、プトレシンを染み込ませたコットンを小さな容器に入れ、その容器をチンパンジーから見えないようにバケツの中に入れます。
バケツには、臭いが発散できるように小さな穴が複数開けられており、中には小型のファンが入れられています。
さらに、バケツの上に小鳥のはく製または手袋を置き、死体(=小鳥のはく製)と死体の臭い(=プトレシン)がセットで存在する時に、より強い忌避反応を示すのか、
死体とセットでない場合(=手袋の場合: チンパンジーが見慣れた手ごろな物体)でも臭いを嫌がるのかを検証しました。
その結果、チンパンジーは無臭の時と比べてプトレシンの臭いをかがせた時のみ、バケツから距離を取ることが分かりました。
またこの時、バケツの上に乗っているものが、はく製か手袋かは関係がありませんでした。
さらにこの研究では、プトレシンを臭いとして感じ取れない濃度でも試していますが、悪臭として感じ取れないレベルの場合でも、チンパンジーたちは忌避反応を示したのです。
つまり、死体と死の臭いがセットになったことによって特に反応が強まるというわけではなく、死体の存在が無くても忌避反応が起き、さらに臭いとして感じることが出来なくても忌避反応が起きることが示されたのです。
この結果より、実際に死体を見ていなくても、死臭を意識的に感じていなくても、低濃度のプトレシンが発生しているだけで、生物はなんとなく嫌な感じがするから近づかないでおこう、という行動を実際にとることが科学的に証明されました。
危うきに近寄らず、ということわざもありますが、なんとなく嫌な感じがする、というシチュエーションに出会ったときには、そっとその場から離れるのが安全かもしれません。
それは危険を感知した本能の呼び声かもしれないのです。
記事内の誤字(化学物質についてプレシトシンと書かれていましたが、正しくはプトレシン)を修正して再送しております。