プラスチックを『好むようになる』動物の不気味な現象

海洋に蓄積するプラスチックごみは、今や数百万トン規模に達し、動物たちがそれを誤食する例が数多く報告されています。
ウミガメが透明なビニール袋をクラゲと間違えて飲み込むことや、魚が砕けた米粒サイズのプラスチック片をプランクトンだと思って食べることはよく知られています。
視覚的な誤認だけでなく、匂いも生き物を惑わす要因です。
2016年の研究では、海面を漂うプラスチックに海藻が付着することでジメチルスルフィド(DMS)という化学信号が出され、嗅覚トラップ(olfactory trap)となって海鳥などを餌と誤認させる可能性が指摘されました。
また類似の研究では、マイクロプラスチック(ポリスチレン)に高濃度で曝露されたヨーロッパパーチの幼魚が、天然の餌よりもプラスチック粒子を優先的に食べるという結果が得られています。
その稚魚たちは発育が悪く動きも鈍り、天敵に捕まりやすくなるという悪影響まで確認されました。
2019年には、アメリカの研究チームがサンゴ(Astrangia poculata)においても同様の現象を報告しました。
野生のサンゴの一種を調べたところ、ポリプ(サンゴ個体)の胃から多数のマイクロプラスチック繊維が見つかりました。
研究室実験では、人工餌とプラスチック粒を同時に与えると、サンゴはきれいなプラスチック(未バイオフィルム)をバイオフィルム付きよりも4〜5倍多く摂食し、その後天然の餌が十分に摂れなくなるケースが観察されました。
特に興味深いのは、添加剤や微量化学物質が、未使用の“clean”プラスチック片にもフィーディング刺激(feeding trigger)として作用してしまう可能性が示唆されている点です。
こうした報告を踏まえ、今回の研究チームは次のような問いを立てました。
生き物がマイクロプラスチック入りのエサを繰り返し食べることで、「汚染エサを好むように学習してしまう」可能性はあるのか?
これまでの研究は「誤認」や「匂いによる錯覚」といった受動的な現象でしたが、本研究では行動学習の視点から、汚染エサに対する“積極的な嗜好”形成を検証する点に特徴があります。
つまり動物たちは、繰り返しプラスチック入りの餌を食べるうちに、それを本物の餌と誤認するだけでなく、「好きな餌」として積極的に選ぶようになってしまうのではないか──この恐ろしい可能性を検証するために、本格的な実験が開始されたのです。