ミトコンドリアDNAはウイルスのように振る舞う
私たちの細胞に含まれるミトコンドリアは、古代の細菌の子孫であることが知られています。
いまから15~20億年前に、私たちの祖先は酸素呼吸能力を持ったミトコンドリアの先祖を細胞内に閉じ込め、自らも酸素呼吸ができるように進化したのです。
このようにミトコンドリアは他の生物種を起源にしており、ミトコンドリアは独自の37個の遺伝子を持つことが知られています。
しかし近年の研究により、しばしば自身のDNA断片を放出しており、その断片が人間のDNAに組み込む性質を持っていたことが明らかになりました。
自身のDNAをヒト染色体に組み込む性質は、ウイルスなどでよく知られています。
たとえばエイズウイルスなどでは、自身の遺伝子(RNA)をDNAに変換して、細胞のDNAに組み込み、増殖の効率化を図ります。
このような挿入された断片は核内ミトコンドリアDNA断片(NUMT)と呼ばれており、15~20億年前に共生が始まって以降、私たちの染色体内部に営々と蓄積され続けており、現在の私たちの染色体内部には、多くは先祖から受け継いだミトコンドリアDNA断片が何百個も存在しています。
ただ既存の研究では、このようなミトコンドリアDNA断片の移行は非常にまれだと考えられていました。
実際、新しいミトコンドリアDNA断片がヒトゲノムに組み込まれるのは4000回の出生につき1回程度だと考えられています。
親から子にミトコンドリア断片の移行が「遺伝」するには、生殖細胞内で移行イベントが起こらなければなりません。
さらにそのような移行に害があった場合、胎児の成長が失敗するなどして、排除されてしまいます。
多くの人々がミトコンドリアのDNA断片を抱えながら健康でいられるのは、挿入された断片の機能や挿入が起きた場所が無害だったからだと言えるでしょう。
ただミトコンドリアは生殖細胞だけでなく、全身の細胞に存在しています。
そのため遺伝に関係ない細胞(生殖細胞でない細胞)において、ミトコンドリアDAN断片の移行がどうなっているかは、あまり詳しくわかっていませんでした。
生殖に関係のない細胞であっても、脳細胞や肝臓の細胞は私たちの健康にとっては重要な細胞です。
そこで今回、ミシガン大学の研究者たちは、特に脳細胞をターゲットにして、ミトコンドリアDNA断片の移行がどれほど起きているか、そしてどんな影響があるかを調べることにしました。