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Credit: microbewiki
biology

顔ダニは「人体との融合」に向けて進化し始めていた!

2024.10.26 Saturday

大丈夫、あなただけではありませんから…

デモデックス・フォリクロルム(Demodex folliculorum)は、ヒトを唯一の生息地とするダニの一種です。

食事から交尾、出産、死に至るまで、すべてのライフサイクルが人体の皮膚上で展開されます。

このようにD. フォリクロルムは人間に依存して生きていますが、英レディング大学(University of Reading)の2022年のゲノム研究によると、彼らは近縁種のダニには見られない驚きの変貌を遂げ始めています。

なんとD. フォリクロルムは不要な遺伝子や細胞を切り捨て、「外部寄生」から「内部共生」への進化を進めていたのです。

D. フォリクロルムはやがて、人体と融合し、私たちと一体化するかもしれません。

研究の詳細は2022年6月21日付で科学雑誌『Molecular Biology and Evolution』に掲載されています。

Skin Mites That Mate on Our Faces at Night Are Slowly Merging With Humans https://www.sciencealert.com/skin-mites-that-mate-on-our-faces-at-night-may-soon-become-one-with-humans The secret lives of mites in the skin of our faces https://www.reading.ac.uk/news/2022/Research-News/Secret-lives-of-skin-mites-in-our-faces
Human follicular mites: Ectoparasites becoming symbionts https://doi.org/10.1093/molbev/msac125

ゲノム解読から「進化の行き詰まり」を迎えていると判明!

「顔にはダニが住んでいる」という話を聞いたことがある人は多いと思います。

あまり考えたくはないでしょうが、通称「顔ダニ」と呼ばれるD. フォリクロルムは、私たちの出産時に寄生し、地球上のほぼすべての人の肌に見られます

体長はわずか0.3ミリ程度で、普段は顔やまつげの毛穴の中に住み着いています。

体はソーセージ状の長い胴体をしており、前方に小さな口や脚が寄り集まっています。

まあ、顕微鏡上で見る分にはクマムシみたいで可愛いものです。

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顕微鏡で見た「顔ダニ」の全体像 / Credit: ja.wikipedia

彼らは毛穴の中の細胞から分泌される皮脂を唯一の食料源とし、約2週間の寿命の大半を食事に費やします。

D. フォリクロルムが毛穴から出てくるのは夜間のみで、その間に皮膚上をゆっくりと歩きながらパートナーを探し、交尾を済ませて、暗いうちに再び毛穴に戻ります。

レディング大学の研究チームは2022年に、世界初となるD. フォリクロルムのゲノム解読を実施しました。

その結果、この奇妙なライフサイクルを可能にしている遺伝的特性の数々が初めて明らかにされています。

まず、D. フォリクロルムのゲノムは近縁種と比べて最も少なく、必要最低限のものだけに絞られていました。

彼らの脚はたった3つの細胞によって動かされ、体内のタンパク質も生存において必要最低限な量しかありませんでした。

これはヒトの皮膚上に天敵や競争相手がおらず、種として孤立状態にあるため、使わなくなった機能を切り捨てたためと考えられます。

さらに顔ダニに見られる他の特性も、この遺伝子の切り捨てが原因です。

例えば、夜間しか姿を現さないのは、失われた遺伝子の中に、紫外線から身を守るための遺伝子や、日中に生物を覚醒させるための遺伝子が含まれていたからです。

夜しか動かないのであれば、そうした遺伝子も必要ありません。

こちらはD. フォリクロルムが小さな脚を使って歩く様子を顕微鏡下で見たものです。

※ 音量に注意してご視聴ください。

さらに、ほとんどの生物が持っている「メラトニン」というホルモンも作れなくなっていました。

メラトニンの機能は多種多様で、ヒトでは睡眠サイクルや体内時計を調節する働きがあり、小型の無脊椎動物では運動や生殖を誘発する働きがあります。

これに従えば、D. フォリクロルムも運動や生殖ができないはずですが、彼らは自分で作れない代わりに、夕暮れ時にヒトの皮膚から分泌されるメラトニンを摂取していたのです。

このおかげで夜間に毛穴から出て、せっせと交尾に励むことができたのでした。

それでも、潜在的な遺伝子プールが非常に小さいことに変わりはなく、種の遺伝的多様性を拡大するチャンスもありません。

これはD. フォリクロルムが進化の行き詰まりを迎え、絶滅の途上にあることを示唆します。

そこで彼らが取った手段は「ヒトへの外部寄生から内部共生に切り替える」という新たな進化の道でした。

次ページ「寄生体」から「共生体」への進化の途中か?

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