ゲノム解読から「進化の行き詰まり」を迎えていると判明!
顔にはダニが住んでいるというのを聞いたことがある人は多いと思います。
あまり考えたくはない事実ですが、通称「顔ダニ」と呼ばれるD. フォリクロルムは、私たちの出産時に寄生し、地球上のほぼすべての人に見られます。
体長はわずか0.3ミリ程度で、普段は顔やまつげの毛穴の中に住み着いています。
体はソーセージ状の長い胴体をしており、前方に小さな口や脚が寄り集まっています。
毛穴の中の細胞から分泌される皮脂を唯一の食料源とし、約2週間の寿命の大半を食事に費やします。
D. フォリクロルムが毛穴から出てくるのは夜間のみで、その間に、皮膚上をゆっくりと歩きながらパートナーを探して、交尾をし、暗いうちに再び毛穴に戻ります。
研究チームは今回、世界で初となるD. フォリクロルムのゲノム解読を実施。
その結果、この奇妙なライフサイクルを可能にしている遺伝的特性の数々が初めて明らかにされました。
まず、D. フォリクロルムのゲノムは近縁種と比べても最も少なく、必要最低限のものだけに絞られていました。
彼らの脚はたった3つの単細胞によって動かされ、体内のタンパク質も生存において必要最低限な量しかありませんでした。
これは、ヒトの皮膚上に天敵や競争相手がおらず、種として孤立状態にあるため、使わなくなった機能を切り捨てたためと考えられます。
さらに、他の特性もこの遺伝子の切り捨てが原因です。
たとえば、夜間しか姿を現さないのは、失われた遺伝子の中に、紫外線から身を守るための遺伝子や、日中に生物を覚醒させるための遺伝子が含まれていたからです。
夜しか動かないのであれば、そうした遺伝子も必要ありません。
こちらは、D. フォリクロルムが小さな脚を使って歩く様子を顕微鏡下で見たものです。
さらに、ほとんどの生物が持っている「メラトニン」というホルモンも、D. フォリクロルムは作れなくなっていました。
メラトニンの機能は多種多様で、ヒトでは睡眠サイクルや体内時計を調節する働きが、小型の無脊椎動物では運動や生殖を誘発する働きがあります。
これに従えば、D. フォリクロルムも運動や生殖ができないはずですが、彼らは自分で作れない代わりに、夕暮れ時にヒトの皮膚から分泌されるメラトニンを摂取していたのです。
これによって、夜間に毛穴から出て、交尾に励むことができます。
それでも、潜在的な遺伝子プールが非常に小さいことに変わりはなく、種の遺伝的多様性を拡大するチャンスもありません。
これは、D. フォリクロルムが進化の行き詰まりを迎え、絶滅の途上にあることを示唆します。
そこで彼らが取った手段は、「ヒトへの外部寄生から内部共生に切り替える」という新たな進化でした。