宇宙の設計図から「時間」が抜け落ちている

時間はなぜ流れるのか。そして、なぜ過去から未来へという一方向にしか進まないのか。
あまりにも当たり前すぎて、普段は問うことすらしません。朝が来て夜になり、昨日には戻れない。私たちは日々の経験としてそれを知っています。
ところが物理学の立場から見ると、この「当たり前」はまったく当たり前ではありません。
物理法則の多くは、時間の方向を区別しないのです。
たとえば振り子が揺れている映像を逆再生してみてください。右に振れてから左に振れる──逆再生しても、左に振れてから右に振れるだけです。
どちらが「正しい方向」なのかを、法則そのものは教えてくれません。
ボールを落としたときにどれだけ下に行ってしまうかの距離は重力に時間の2乗を掛け算したもの「重力×t²」によって決まります<h = ½ × g × t²>。
そのため一見すると普通の時間が必要に思えますが、tの右上にある「2乗する」という部分がそれを否定します。
tの中身がプラスでもマイナスでもt²の値は同じです。
方程式にとって、時間が前(プラス)に進んでいるのか後ろ(マイナス)に戻っているのかは、文字通り「同じこと」なのです。
もちろんこれは話をごく単純にした例ですが、本質的な構図は変わりません。
ニュートン力学から電磁気学まで、物理学の基本方程式のほとんどは時間を逆転させても同じ形を保ちます。
私たちが当然と思っている「時間は一方向にしか進まない」という性質は、基本的な物理法則から抜け落ちているのです。
しかもこの問題は量子の世界に及びます。
通常の量子力学の方程式には時間を現わす「t」がしっかり組み込まれています<iℏ ∂Ψ(x, t)/∂t = Ĥ Ψ(x, t)>。
ですが宇宙全体をひとつの量子力学の方程式で記述したものには、宇宙の大きさを表す部分(a)や物質の状態を表す部分(φ)はあるものの、時間をあらわす「t」はどこにもないのです<Ĥ(a, φ) Ψ(a, φ) = 0>。
これは抽象的な数学の話ではなく、現代物理学が正面から突きつけられている問題です。
もし宇宙の最も根本的な記述に時間が含まれていないなら、私たちが毎日感じている「時間の流れ」は、いったいどこから来ているのでしょうか。
そこで今回研究者は、時間は宇宙の「外側」にある見えない時計が刻んでいるのではなく、宇宙の「内側」にある物質同士の関わり合いや変化の中から、自然に湧き出てくるのではないか――つまり時間の「種」は物質同士の関わり合いの中から生まれ、物質が変化するたびに時間が一歩ずつ生み出されていると考えました。
バロンティーニ教授の実験は、この仮説を実験室で検証しようとした、世界でも数少ない試みのひとつです。
しかし、そんなことをどうやって確かめたのでしょうか?




















































