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「観測するまで状態が確定しない」ってどういうこと?
「シュレーディンガーの猫」というのは、物理学者エルヴィン・シュレーディンガーが頭の中だけで行った実験(思考実験)です。
ほとんどの人はこの話しの内容を、「一定確率で毒ガスを放出する装置と一緒に箱に入れられたネコは、蓋を開けて観測するまで生きた状態と死んだ状態が重なり合っている」という風に聞いていると思います。
そして、その意味するところは「観測するまで物事の状態は確定しない」という量子力学の奇妙な考え方を説明するものだと知っているでしょう。
しかし、そもそも量子力学はどうしてこんな不思議な考え方をするようになったのでしょうか?
最初のモヤモヤポイントとして、まず「観測するまで物事の状態は確定しない」という考えの登場した経緯を見ていきましょう。
20世紀のはじめ、物理学者たちは光や電子が粒子として見ても、波として見ても、どちらでも成立してしまうという不思議な問題にぶつかります。
粒子と波、これは古典物理学(私たちが学校で習う普通の物理学)から見た場合、まるで異なる性質のためどうやっても同時に成り立たせることはできません。
そこで物理学者たちはこの問題を成立させるために、それまでの物理学を捨て去りまったく新しい理論を作り直したのです。
これが量子力学です。
そのため「量子力学」は物理学の1分野でありながら、私たちが知る物理学とは何から何まで考え方が異なります。
特に大きな違いが、量子力学は頭に思い描けるような基本的なイメージがないということです。
量子力学は私たちの目には見えない非常に小さな世界を記述する学問です。そのため視覚的なイメージというものを本来持っていません。
しかし数学者を除けば、ほとんどの人はイメージできないことを考えるのが苦手です。それは物理学者も同様でした。
そこで物理学者たちは、量子力学の抽象的な世界を馴染み深い古典物理学の視覚的なイメージに置き換えて説明しようと頑張りました。
そうして誕生したのが、原子核の周りを衛星のように回る電子のイメージや、電子が自転するスピンのイメージ、光が波になったり粒子になったりするイメージです。
しかしこれらの視覚的イメージは、厳密には正しくありません。
だから、量子力学の問題では、現象をどのように解釈するかで、さまざまな議論が起きるようになりました。
私たちが漫画やアニメの話しをするときだって、解釈の仕方でよく口論が起こるのですから、これは当然のことでしょう。
では、物理学者たちは光や電子が波と粒子という2つの性質を同時に持つ問題を、どの様に解釈したのでしょうか?
理論物理学者ニールス・ボーアは、これについて次のような考え方を示しました。
「どういった観測の仕方をするかが、光の波動、粒子いずれかの性質を決定している」
つまりボーアは光を、粒子として見ようとするか、波として見ようとするかで、どっちの性質に見えるか決まると言ったのです。
そんな考え方ズルいと思う人もいるかもしれません。実際ボーアの弟子だったハイゼンベルグも「そんな説明でいいなら苦労しねえよ」とパウリに愚痴ったそうです。
しかし、これが後に洗練され、私たちにとって馴染み深い量子力学の考え方になるのです。
それが「観測するまで物事の状態は確定しない」という考え方です。
つまりこの考え方は、光が粒子や波の性質を同時に持つ方法として必要なものだったのです。
この奇妙な考え方は、提唱したボーアが祖国デンマーク・コペンハーゲンの研究所のボスだったことから、後にコペンハーゲン解釈と呼ばれるようになります。
しかし、当時この考え方に大反対した大物物理学者たちがいました。
それがアインシュタインやシュレーディンガーです。
え? シュレーディンガーはこの考え方に反対だったの? という人がもしかしたらいるかもしれません。
次項では、この点について考えていきましょう。