「ファン」と「ストーカー」の違いはどこにある?
ストーカーとは、特定の人につきまとい、脅迫したり、何らかの危害を加える人物と定義されます。
ストーカーによる被害は多くの人が想定しているよりもずっと一般的で、アメリカでは年間に約170万人がストーカー被害を受けているといいます。
中でも有名人は狂信的なファンによるストーカー行為にさらされやすく、それが行き過ぎると傷害や殺人事件につながりかねません。
(1980年に起きたジョン・レノンの殺害はその最たる例とされています)
そこで研究チームは、熱心なファンとストーカーの違いがどこにあるかを探るべく、アメリカの大学生596人を対象としたアンケート調査を実施することにしました。
アンケートのいくつかは先行研究で開発されたもので、有名人に対する人々の態度や行動を測定するものです。
今回使用された「Obnoxious Fan Activities Scale-18 (OFAS-18)」は60項目のファン行動リストの中から、サインを求める・ファンクラブに入会するといった「正常なファン活動」や、有名人対する書き込みをするなど内容によって安全と危険が分かれる曖昧な行動などを除外した、18の危険で迷惑な行動を抜き出し評価します。
この危険な行動は、有名人を付け回す・脅迫する・自宅に侵入するといった「ストーキング行為」を指します。
すべての項目には、次のような質問形式が付されています。
「16歳以降、以下のような行為をしたことがありますか? 回答は、1:全くない〜5:頻繁にある」
質問の例としては「公共の場で有名人の後をつけたことがあるか」「有名人の宿泊先まで行き、出待ちをしたことがあるか」「有名人に性的関心を抱いたことがあるか」「有名人の敷地内に侵入したことがあるか」などです。
これらの質問で高スコアを示す人ほど、有名人へのストーカー行為に及ぶ可能性が高いと評価されます。
また他の調査項目では、対象者の怒りやすさ、スリルの追求度、人間関係への愛着の度合い、性格特性など、ストーカー行為に関連すると予想される因子を測定しました。
ストーカーになりやすい3つの要因が判明!
回答を統計的に分析した結果、有名人のストーカー行為に及ぶ可能性が高くなる要因がいくつか存在することが判明しました。
特にストーカー行為と最も強く関連していたのは、
・好きな有名人の内面に対し勝手な推測を頻繁にする
・その有名人についてもっと多くを知りたいと感じ情報収集をすること
・退屈しがちな性格特性であること
でした。
過去のストーカー事件を調べてみると、加害者は有名人と面識がないにも関わらず、「あの子を幸せにできるのは自分しかいない」とか「あの人の気持ちを解ってあげられるのは私だけ」といった身勝手な解釈を抱きやすい傾向があります。
ある先行研究では、熱心なファンの25%は有名人の配偶者や恋愛相手になりたいと認めており、さらにそのうちの41%は、自分がその有名人の友人や知人、助言者であるとの自覚を持っていることが示されていました。
また脅迫的なファンレターを調べた研究では、加害者がすでにその有名人と何らかの個人的な関係を持っていると信じている傾向も見つかっています。
しかし、上記の要因については、いまさら言われるまでもないと感じる人も多いでしょう。
今回の結果で、少し奇妙に感じるのは3つ目の「退屈しがちな性格特性」という部分でしょう。
実際、研究主任のマリア・ウォン(Maria Wong)氏も「退屈しがちな特性がストーカー行為と密接に関係しているのは予想していなかった」と話します。
これがどういう風にストーカー行為と繋がっているかは不明です。
しかし、ある程度推測することはできるかもしれません。
一つは特定の趣味を持ちづらいために時間を持て余し気味となり、その時間を有名人の情報収集をに当てやすいこと。
また、強く興味を惹く対象が見つけにくいために、一度ハマるとその対象を特別だと思い込みやすくなり、それが狂信的な好意を加速させる可能性などです。
一方で、相関がありそうだと予想されていた、怒りやすさ・スリルの追求度・人間関係への愛着の高さは、ストーカー行為と相関が見られなかったとされます。
ファンは「エンターテイナーとしての能力」を純粋に愛する
反対に、好きな有名人への憧れがその人のエンターテイナーとしての能力にもとづく場合、ストーカー行為に及ぶ可能性は低くなることが示されました。
たとえば、歌手なら美しい歌声や元気をくれる楽曲に、俳優なら心を揺さぶる演技に感激するなど、有名人を応援する理由が純粋に娯楽性にのみもとづいている場合です。
これらの人々はストーカーではなく、ファンと言えるでしょう。
アンケート調査でもこの傾向が強い人々は、有名人に対し個人的な考えや感情を抱くことは少なかったようです。
実は「ストーカー」という言葉が世界的に浸透したのは比較的近年のことであり、日本では主に1990年代に定着しました。
それ以前は「ファンなのに危害を加えるストーカー」という存在が理解できず、ストーカーに当たる行為には見知らぬ人であれば「変質者」、知り合いであれば「痴情のもつれ」という言葉が使われていたのです。
実際97年にフジテレビで放映された人気ドラマ「踊る大捜査線」の中では、ストーカー犯罪を高齢の署長は理解できず「なんで好きなのに危害を加えるの?」という質問に、主人公の青島が一生懸命説明するシーンが描かれています。
しかし、ここ20〜30年で「ストーカー」と名の付く事件が国内で一挙に急増しています。
その背景には、ネットやSNSの発達により「推し」の動向や情報が入手しやすくなったり、地下アイドルや握手会の増加など、実際に会いに行きやすくなったことが関係しているのかもしれません。
もし自分の「推し活動」がストーカーに発展しないか心配している人がいるなら、今回の危険要因に自分が偏っていないか省みるといいかもしれません。