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サイコパス傾向のある人は反社会行動のブレーキになる脳領域が小さい

2025.07.06 12:00:41 Sunday

一見すると魅力的で好感の持てる人なのに、なぜか悪びれる様子もなく堂々と平気で嘘をついたり、人を利用したりする人がいます。

こうした人たちは、心理学の世界では「サイコパス傾向がある」と呼ばれます。

「サイコパス」と聞くと映画の悪役のような恐ろしい人物を思い浮かべるかもしれませんが、これは性格的な傾向のことであり、実際には犯罪と関連するものではなく、社会の中で問題なく普通に暮らしている人の中にも、この傾向を持つ人は多く存在します。

では、そうした人たちの脳には、私たちと何か違いがあるのでしょうか?

この疑問に答えるため、ドイツのユーリッヒ研究センター(Forschungszentrum Jülich)とアーヘン工科大学(RWTH Aachen University)の研究チームが、新たな脳画像研究を行いました。その結果、「サイコパス傾向のある人の脳では、反社会的な行動を止める“ブレーキ役”の部分が小さい傾向」が明らかになったのです。

この研究成果は、2025年5月に科学雑誌『European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience』に掲載されました。

A psychopath’s brain is strikingly different https://newatlas.com/mental-health/psychopathy-brain-structure-changes/
Associations of brain structure with psychopathy https://doi.org/10.1007/s00406-025-02028-6

脳の中で何が「ストッパー」になるのか?

サイコパスという言葉には、少し怖い印象があるかもしれません。

これはフィクション作品などで、殺人者というイメージが刷り込まれているからかもしれませんが、心理学では一般的な性格特性の1つとして扱われている用語です。

この特性を持つ人は、第一印象で人を引きつける“魅力”が高いとされる一方で、他人への共感や罪悪感が乏しく、怒ったり機嫌が悪いわけでもないのに、平然と嘘をついたり、他人を傷つけるような行動をとることがあります。

普通の人は、相手との関係を壊さないように言葉を選んだり、ルールに従ったりします。ところがサイコパス傾向のある人は、そうした社会性が低いというのが特徴です。

ルールは破るためにあると思っている人はサイコパス傾向が高い/Credit:Honkai: Star Rail

過去の研究では、こうしたサイコパス傾向が見せる社会性の低さには「脳に普通の人とは違いがあるのではないか」と考えられてきました。とくに注目されてきたのは、感情や判断、そして衝動のコントロールに関わる前頭前野(ぜんとうぜんや)の違いです。

しかし、従来の研究には課題も多くありました。調査対象が少人数だったり、分析のやり方がまちまちだったりしたため、どの結果も決め手に欠けていたのです。

さらに、サイコパスとひとことで言っても、人によって特徴はかなり違います。たとえば、ある人は他人への冷淡さが目立ち、別の人はルールを破る衝動が強いというように、その傾向にはばらつきがあります。

そこで今回の研究では、そうした違いを見落とさないよう、サイコパス傾向を「対人・感情面の異常」と「反社会・衝動的な行動」という2つの側面に分けて調べました。

研究には、ドイツ国内の3つの司法関連機関(矯正施設や保護観察所など)から集めたサイコパス傾向のある男性39名と、同じく公募で集めた健常な男性39名、計78名が参加しました。(論文ではサイコパスの有病率は男性の方が高く、また脳構造に性差がある可能性があるため、本研究では男性のみを対象としたと説明されている)

参加者は全員、18歳以上60歳以下で、いずれも精神疾患や薬物使用歴がないよう、事前に厳しくチェックされています。

そして、彼らの脳をMRI(磁気共鳴画像)で撮影し、脳の構造を詳細に比較しました。

使われたのは「変形ベースの形態計測(DBM)」という手法です。これは、すべての脳を共通の“脳の地図”にぴったり当てはめて、部位ごとの大きさや形の違いを数値化する最新の方法です。

さらに、年齢や頭の大きさといった要素が結果に影響しないよう、統計的な調整も細かく行われました。これにより、脳のわずかな違いまで正確に検出して比較できるのです。

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