脳の中で何が「ストッパー」になるのか?
サイコパスという言葉には、少し怖い印象があるかもしれません。
これはフィクション作品などで、殺人者というイメージが刷り込まれているからかもしれませんが、心理学では一般的な性格特性の1つとして扱われている用語です。
この特性を持つ人は、第一印象で人を引きつける“魅力”が高いとされる一方で、他人への共感や罪悪感が乏しく、怒ったり機嫌が悪いわけでもないのに、平然と嘘をついたり、他人を傷つけるような行動をとることがあります。
普通の人は、相手との関係を壊さないように言葉を選んだり、ルールに従ったりします。ところがサイコパス傾向のある人は、そうした社会性が低いというのが特徴です。

過去の研究では、こうしたサイコパス傾向が見せる社会性の低さには「脳に普通の人とは違いがあるのではないか」と考えられてきました。とくに注目されてきたのは、感情や判断、そして衝動のコントロールに関わる前頭前野(ぜんとうぜんや)の違いです。
しかし、従来の研究には課題も多くありました。調査対象が少人数だったり、分析のやり方がまちまちだったりしたため、どの結果も決め手に欠けていたのです。
さらに、サイコパスとひとことで言っても、人によって特徴はかなり違います。たとえば、ある人は他人への冷淡さが目立ち、別の人はルールを破る衝動が強いというように、その傾向にはばらつきがあります。
そこで今回の研究では、そうした違いを見落とさないよう、サイコパス傾向を「対人・感情面の異常」と「反社会・衝動的な行動」という2つの側面に分けて調べました。
研究には、ドイツ国内の3つの司法関連機関(矯正施設や保護観察所など)から集めたサイコパス傾向のある男性39名と、同じく公募で集めた健常な男性39名、計78名が参加しました。(論文ではサイコパスの有病率は男性の方が高く、また脳構造に性差がある可能性があるため、本研究では男性のみを対象としたと説明されている)
参加者は全員、18歳以上60歳以下で、いずれも精神疾患や薬物使用歴がないよう、事前に厳しくチェックされています。
そして、彼らの脳をMRI(磁気共鳴画像)で撮影し、脳の構造を詳細に比較しました。
使われたのは「変形ベースの形態計測(DBM)」という手法です。これは、すべての脳を共通の“脳の地図”にぴったり当てはめて、部位ごとの大きさや形の違いを数値化する最新の方法です。
さらに、年齢や頭の大きさといった要素が結果に影響しないよう、統計的な調整も細かく行われました。これにより、脳のわずかな違いまで正確に検出して比較できるのです。