量子力学の誕生に貢献した科学者たち
量子力学の誕生に貢献した科学者たち / Credit:depositphotos,canva,Wikipedia,ナゾロジー編集部
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歴史で学ぶ量子力学【改訂版・1】「私のやったことは窮余の策だった」

2021.12.31 Friday

はじめに 「量子力学」を考える上での注意

量子力学が難解な学問という認識は、誰もが抱いているでしょう。

では、なぜ量子力学は難しいのでしょう?

その理由は、量子力学が本来は頭の中でイメージできるような概念を持っていないためです。

とはいえ、量子力学に関するさまざまな図解やたとえ話は、誰でも一度は目にしたことがあると思います。

しかし、実のところ、それらはすべて厳密には正しくないのです。

物理学とは、ニュートンからはじまり、目に見える現象の数々を説明する学問として発展してきました。

ところが、あるときこの理論が崩れ去り、既存の理論では一切説明のつかない事実が次々と発見されたのです。

それはたとえば、光が波として見ても、粒子として見てもどちらでも成立してしまう、という問題です。

これは頭でイメージしようとしても(あるいは図に描こうとしても)、思い描くことが不可能です。

そのため、物理学者たちはこのイメージできない新しい理論を「量子力学」と呼び、これまでの物理学(古典力学)と切り離しました

しかし、物理学者も私たちも(数学者を除き)、何が起きているのかイメージできない問題を考えることは非常に不得意で、あまり好きではありません。

そこで、物理学者たちは、馴染み深い古典力学の概念を使って、なんとか量子力学の現象を可視化しようと試みました

これが私たちのよく知る、量子力学の図説になったのです。

つまり私たちが知っている量子力学に関する説明は、すべて、本来はまったく異なる概念である、古典力学によって無理やり描き出したイメージなのです。

そのため、同じ量子力学の問題でも、解説してる本やサイト、人物によって、全然説明の仕方や解釈が異なってしまう場合もあります。

物理学者たちは、こうした問題をきちんと自覚した上で、うまく利用していますが、私たちはこの事実を理解していないため、頭がこんがらがってしまうのです。

これからはじめる量子力学のお話しも、できる限り視覚的なイメージを交えて解説していきますが、それはあくまで古典力学に置き換えた場合のイメージであって、正しい姿ではないのだということに注意してください

量子力学はすべて、本来はイメージすることが不可能な問題であることを念頭におきながら見ていけば、多少は量子力学の理不尽な説明にも納得できるかもしれません。

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量子の発見

「結局わたしのやったことは窮余の策だった」マックス・プランクの肖像
「結局わたしのやったことは窮余の策だった」マックス・プランクの肖像 / Credit:Wikipedia Commons

量子力学の歴史はマックス・プランクの行った黒体放射の研究から始まります。

これはのエネルギーと色の関係を調べる研究でした。

ガスバーナーやコンロの炎は赤色より青色の方が温度が高く、夜空の星々も赤より青く輝く方が高温の星です。

熱した物体は光を放ちますが、これは温度によって色が変わります。これは古くから知られている事実でした。

黒体放射の研究では、黒体という道具を熱してそれがどの温度だと何色に輝くかを調べます。

温度が高いということは、エネルギー量が大きいということを意味しています。

そして光の色は、光の波長によって決まっています。

つまりこの黒体放射の実験の目的は、あるエネルギー量のとき光は何色に輝くかを予測できる方程式を作ることでした。

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波長の短い光(青い光)の方がエネルギー量が高く、波長が長い光(赤い光)の方がエネルギー量は低い。/Credit:ナゾロジー編集部,canva

この研究はプランク以前にも多くの研究者が挑戦していました。しかし、どういうわけか温度と色の関係を1つの方程式で表現することが誰にもできなかったのです。

普通に考えると、実験結果から、温度(エネルギー量)と光は波長(色)の関係を書き出していき、この数字にあった方程式を作ればいいだけなのだから、意外と簡単にこの研究は完成しそうな気がします。

ところが、どの研究者たちも、なぜか作った方程式の答えが長波長(赤い光)になるほど実験結果とズレてしまったのです

黒体放射の測定グラフ。縦軸はエネルギー量、横軸は波長を表す。温度ごとに波長のピークは決まっていて、それは温度があがる程短くなっていく(上)。黒体放射の温度ごとの色。温度が高いほど青に近づく(下)。この結果を方程式にするために物理学者たちは頭を悩ませた。
黒体放射の測定グラフ。縦軸はエネルギー量、横軸は波長を表す。温度ごとに波長のピークは決まっていて、それは温度があがる程短くなっていく(上)。黒体放射の温度ごとの色。温度が高いほど青に近づく(下)。この結果を方程式にするために物理学者たちは頭を悩ませた。 / Credit:4C,Wikipedia Commons/natural science

なぜ波長が伸びるほど、計算と実験結果はズレてしまうのでしょうか?

波長(波と波の間の幅)が短くなると、振動数(ある区間内で波打つ数)は増えることになります。実験結果と方程式のズレは、研究者たちの予想よりも振動数が大きいときにエネルギー量が大きくなってしまうことを意味していました。

そこでプランクは、もっとも単純な解決策として、振動数に定数を掛けるというアイデアを採用します。

光が1回振動するときに現れる最小エネルギー量を実験結果から導き出し、定数として方程式に組み込んだのです。

それが「E = hν」という数式です。

Eとは光のエネルギー量、ν(ギリシャ文字「ニュー」)は光の振動数を表します。そしてhとして導入されたのが、プランクが実験から導き出した最小のエネルギー量「プランク定数」です。

プランク定数hは6.626 × 10-34という恐ろしく小さい値で、日常的なスケールではまず気づくことのできないものです。

そのため、こうした定数が存在することは、プランク以前に誰も気づいていませんでした。

こうして作り出されたプランクの方程式は、実際に検証してみるとピタリと実験結果と一致しました

しかし、単に定数を掛ければうまく計算できる、なんてことは非常に単純な方法です。このプランクの作った方程式も非常に単純な式になっています。

なぜプランク以前の人々は、こんな簡単な方法に気づかなかったのでしょうか?

それは物理学者たちが当たり前の常識として、光を連続して変化する波であると考えていたからです。

プランクのやったように、振動数に定数を掛けてしまうと、光のエネルギーは「h」という飛び飛びの値で変化することになってしまいます。

それはすなわち、光が連続した波ではなく、「hν」というエネルギーをもった粒子として捉えていることになってしまうのです。

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プランクの式は光を波として捉えず、粒子として捉えていた。/ナゾロジー編集部,canva

つまりプランクの方程式は、光を波として考えた場合、黒体放射を物理的なイメージで説明できていないということになってしまいます。

そのため、プランクはこれを単に計算の辻褄を合わせるためにやった窮余の策と考えていました。

プランク自身、光の正体が波ではなく、決まったエネルギー素量を持つ粒子だなんて信じることはできなかったのです。

けれど、この「hν」という塊は、後に量子と呼ばれることになり、物理学のさまざまな局面で重要な意味を持つようになるのです

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