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Credit: canva
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タイタンの湖で「生命体の素」が誕生している可能性

2025.07.24 21:00:40 Thursday

私たちが知る生命の誕生は「水」を前提としています。

地球上の生き物は例外なく水分を必要とし、科学者たちは長年、宇宙のどこかに「液体の水があるか」を生命探しの手がかりとしてきました。

しかし今、その常識をくつがえすかもしれない仮説が提案されました。

舞台は土星の衛星「タイタン」

地表に湖や海を持つこの氷の世界で、液体の水なしでも「生命の素」ともいえる構造体が自然に生まれているかもしれないというのです。

NASA(アメリカ航空宇宙局)の最新研究によって、その驚くべき可能性が明らかになりました。

研究の詳細は2025年7月10日付で科学雑誌『International Journal of Astrobiology』に掲載されています。

Early Forms of Cells Could Form in The Lakes of Saturn’s Moon Titan https://www.sciencealert.com/early-forms-of-cells-could-form-in-the-lakes-of-saturns-moon-titan NASA Research Shows Path Toward Protocells on Titan https://science.nasa.gov/science-research/planetary-science/astrobiology/path-toward-protocells-on-titan/
A proposed mechanism for the formation of protocell-like structures on Titan https://doi.org/10.1017/S1473550425100037

タイタンに「生命体の素」が形成される?

土星の衛星タイタンは、太陽系で唯一、地表に液体をたたえる天体として知られています。

ただしそれは水ではなく、メタンやエタンといった炭化水素の液体です。

地表温度はマイナス180度前後。あらゆる生き物が凍りつくような極寒の環境です。

それでもタイタンには雨が降り、湖や川が流れ、雲が空を覆う――まるで地球のような「循環サイクル」が存在しています。

ただし、水の代わりに活躍するのがメタンというわけです。

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土星衛星タイタン/ Credit: ja.wikipedia

こうしたタイタンの背景の中で、研究者たちはある仮説を立てました。

タイタンでは、まずメタンの大雨が降り、大気中の分子を湖の表面に運びます。

これらの分子は、水のような極性液体(分子内に電気的な偏りを持つ液体)を引き寄せる性質と、脂質のような非極性物質(分子内に電気的な偏りがない)を引き寄せる性質の両方を持っています(=両親媒性)。

例えば、最近のカッシーニ探査機による観測で確認された「ニトリル化合物」

ニトリル化合物は両親媒性であり、さまざまな有機物を次々を集合させて、液体の水なしでも膜構造を作りやすい性質を持っているのです。

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ベシクルが形成されるイメージ図/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

次に、こうした分子が集まって湖面に薄い層を形成し、そこに液体のしぶきが再びかかると、そのしぶきの粒がこの層で包まれ、空中に弾け飛びながら膜に包まれた微小な液滴(ミスト)となります。

これがさらにもう一度湖に浸ることで、液滴にはもう一層の膜が加わり、安定した二重層の構造が完成します。

この二重構造の小さな泡こそが、研究者たちが「ベシクル(小胞)」と呼ぶ”生命体の素”になる物質なのです。

ベシクルは、まるで石けんの泡のように、外側が脂質の膜、内側には液体を閉じ込めた構造をしています。

生命の細胞も、こうした膜に包まれた構造から進化してきたと考えられているため、ベシクルの形成は「生命の最初の一歩」とも言える重要な現象なのです。

次ページベシクルはやがて「原始細胞」へと進化する?

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