金が「木になる」本当の理由を探る

「お金のなる木なんてない」と昔から言われますが、実は科学の世界では金(ゴールド)が「木になる」こともあります。
もちろん、木の枝をゆすって金の延べ棒が落ちてくるわけではありません。
地下深くに眠る鉱脈(鉱物が集まっている地層)から、わずかに染み出した金が木の葉っぱに微量に蓄積されるという現象が以前から知られているのです。
地下にある鉱脈には水が染み込み、その水の中に金属がごく微量に溶け出します。
こうして溶け出した金は、水と一緒に地面を通って地表近くの土まで運ばれ、植物が土壌から水を吸収するときに金も一緒に吸い上げてしまうという仕組みです。
ただし、金の量は非常に少なく、ふつうの目ではまったく確認できません。
しかし特殊な高感度の分析装置を使えば、植物の葉っぱや時には雪の中にさえ、ごく微量の金属が含まれていることを見つけることができます。
このような生き物を使った探査方法を「バイオ地球化学的探査法」といい、最近では地下に隠れた鉱脈を効率よく見つけるために活用されるようになっています。
ところが、「葉っぱに金属が入っている」ということは分かっても、実際には葉の中で金がどうやって「固まって粒になる」のか、その詳しい仕組みは長い間謎のままでした。
もともと植物は体の中で、ときどき鉱物の結晶を作り出すことがあります。
これを「生物鉱化(バイオミネラリゼーション、生物が鉱物を作る現象)」と呼び、植物が体内に入った有害な金属を無害な形に変えてしまう防御反応のひとつではないか、とも考えられています。
しかし、この植物内で金が固まる現象は、散発的で局所的であり、どの植物でも起こるわけではありません。
また、金属が植物の体内で結晶化する条件や仕組みについては謎が多く、科学者たちは長年「なぜそんなことが起きるのだろう?」という疑問を抱き続けてきました。
そこで研究チームは視点を少し変えてみました。
植物の内部には、「エンドファイト(内部共生菌)」と呼ばれるたくさんの細菌が共生しています。
私たち人間の体内にもたくさんの細菌がいて、健康を保つために必要な働きをしているのと同じように、植物の中の細菌も植物の生育を助けたり、栄養をやりとりしたりするなど、重要な役割を担っています。
そこで研究者たちは、「ひょっとしてこの植物の中の細菌こそが、金属の粒を作り出す黒幕なのでは?」と考えました。
言い換えれば、植物内に棲む細菌たちが「見えない金」を、私たちが検出できるような「見える金属粒」に変えてしまう“ひそかな錬金術師”なのではないかという大胆な発想です。
実際、土壌の中にいる微生物は鉱物を作り出す働きを持っていることがよく知られています。
土の中で鉱物を作ることができる微生物が、植物の体内でも同じようなことをしているかもしれません。
この考えが本当だとすれば、植物の中に金の粒ができる謎が解明されるかもしれません。
では、金は一体どこからやって来て、どのようにして葉の中で固まるのでしょうか。
研究チームはこの魅力的な謎に挑むために、実際に調査を開始したのです。