やり遂げられないのは意思が弱いから?
「ダイエットを始めるぞ」と意気込んでも三日坊主になってしまう人は少なくありません。逆に、毎朝歯を磨くような行動は特に努力しなくても自然に続けられます。ここには「習慣(habit)」の力が大きく関わっています。
習慣とは、同じ状況で繰り返された行動が自動的に引き起こされる仕組みのことです。
例えば、机に座ると無意識にスマートフォンを手に取ってしまう、といった現象がそれにあたります。健康行動や生活習慣の改善においては、強い意志だけではなく、この「習慣」が長続きのカギになることがこれまで多くの研究から示されてきました。
しかし、これまでの研究には大きな課題がありました。習慣が「行動を始めるきっかけ」にどのくらい影響しているのか、そして「行動を最後まで続けること」にどのくらい関わっているのかという点は、主にアンケートや回想に頼って調べられてきたため、実際の日常生活における割合は十分に明らかではなかったのです。
さらに、「始めること」と「やり遂げること」は異なるプロセスであり、それぞれの自動性を分けて観察する必要がありました。
リアルタイムで行動を追跡
こうした課題を解決するために研究チームが用いたのが「エコロジカル・モーメンタリー・アセスメント(Ecological Momentary Assessment, EMA)」という方法です。これは、日常生活の中で参加者にランダムなタイミングで質問を送り、その瞬間の行動や気持ちを記録してもらう手法です。従来のアンケートのように「思い出して答える」必要がないため、行動をより正確に捉えることができます。
今回の調査では、イギリスとオーストラリアの成人105人が参加しました。研究期間は7日間で、この期間中参加者のスマートフォンには1日6回ランダムに通知が届きます。通知が届くと、参加者は今している行動を報告し、それが「習慣的に始めた行動か」「その行動を続けるのも習慣的にスムーズか」「自分の意図として行っているか」などを答えました。
このようにして収集されたデータは、日常生活を“生のまま切り取る”ことができるものであり、習慣が行動にどのように影響しているのかを精密に測定することを可能にしたのです。