野生の霊長類で初めて「屍姦」を確認!
これまで、霊長類における死んだ仲間への反応については「毛づくろい」や「死児運搬」のみが観察されていました。
死児運搬とは、母親が死んだわが子の亡骸を数日から数週間にわたって運び続ける行動です。
これは母親がわが子の死を理解できていないか、あるいは子供の死を悼んでの行動と見られています。
しかしながら、野生下において死亡した仲間に性行為をしかける「屍姦」については報告例がありませんでした。
そんな中で研究チームはついに野生のベニガオザルにて屍姦行動を発見します。
「ベニガオザル(学名:Macaca arctoides)」はその名の通り、赤い顔が特徴的なオナガザル科の霊長類です。
野生個体は主にインド・中国・タイ・ベトナム・マレーシアなどのアジア圏に局所的に分布しています。
ただこの種については生息域が限定的な上に、切り立った崖の多い岩山を好むため、科学的な調査が難しく、長年にわたって野生での生態調査がまったく行われてきませんでした。
そこでチームは2015年に、野生のベニガオザルの固定的な調査地としてタイ王国を選び、今日に至るまで継続的な行動観察を続けてきました。
そうした最中、2023年の1月30日にベニガオザルのメス成体の死体が偶然に発見されたのです。
これはベニガオザルが「仲間の死」とどう向き合うかを理解する絶好の機会であったため、チームはそのまま観察を続けました。
すると驚くべきことに、1頭のオス成体が死体の側にやってきて、すでに亡くなっているメスと交尾を始めたのです。
その後、2月1日に死体が埋葬されるまでの3日間で、計3頭のオスによる死亡したメスとの交尾行動が4回記録されました。
こちらが実際の画像です。
なぜオスはわざわざ死亡したメスと交尾をしたのか、その理由ははっきりしていません。
しかしチームは、
・ベニガオザルの通常の交尾行動と手順に差がなかったこと
・交尾の頻発しやすい乾季の時期であったこと
・屍姦した3頭のオスはどれも交尾機会の獲得が難しい「社会的順位の低いオス」だったこと
から、単にメスが無抵抗で横たわっているという状況が、地位の低いオスたちの交尾行動を誘発したのではないかと推測しました。
つまり、彼らはメスの個体が「無防備に寝ているだけ」と思い込んで、「死んでいる」ことを理解していない可能性があるといいます。
しかしこれと同程度に、ベニガオザルが「仲間の死」をはっきり理解している可能性もあるという。
それというのも、死亡したメスに交尾をしかけたのは地位の低いオスだけで、本来ならメスとの交尾を独占するはずの高順位のオスたちは交尾をしなかったからです。
これは高順位のオスたちがメスの死を理解して近づかなかったこと、逆に低順位のオスたちは普通のメスとは交尾できないため、言い方は悪いですが「死体でもいいから」と考えた可能性を示唆しています。
加えて、死体に接触した個体の多くは、普段見られない行動(立ち上がって辺りを見回す、匂いを嗅ぐ、触った手を地面に擦り付ける)を示しました。
これは明らかに彼らが仲間の死を理解していることを伺わせます。
今回のオスたちがどのような理由で屍姦を行ったのかは定かでありませんが、十分に意図的な行為だったとも考えられそうです。
なお、研究者らは最後に「本研究はヒトで見られる”屍姦”を肯定するものではなく、またその生物学的進化起源についての示唆を与えるものでもありません」と注意書きをしています。