1個目の卵を捨てなければならない切実な理由とは?
研究主任のロイド・デイビス(Lloyd Davis)氏と同僚たちは、1998年以来、シュレーターペンギンの生息地に赴いて生態調査を行っています。
チームは今回、本種の繁殖地であるニュージーランドのアンティポデス諸島、バウンティ諸島で記録した、約250時間に及ぶ観察データを改めて分析することにしました。
シュレーターペンギンのメスは、通常5日の間隔をあけて2つの卵を産みます。
計158羽のペンギンのコロニーから一時的に採取した卵を比較したところ、これら2つの卵はサイズがまったく違うことが判明しました。
ほとんどの鳥類では、卵のサイズは、産まれるにつれて小さくなるのに対し、シュレーターペンギンでは、2個目の卵が1個目の卵より平均して85%も大きかったのです。
「これほどの卵のサイズ差は、あらゆる鳥類の中でも最大だ」と、デイビス氏は言います。
さらに調査を進めると、親個体の約45%が1つ目の卵を放棄し、触れることすらしませんでした。
他種のペンギンは一般に、石や枝、草を使って巣を作り、その中に卵を置きますが、シュレーターペンギンの90%以上は、1つ目の卵を岩場の上に産み落とし、そのまま放置しました。
しかも、岩場のほとんどは水平でないため、卵が転がり落ちて、割れることもあったのです。
巣の中に産卵した場合でも、1個目の卵は、2個目を産む前か後の時点で巣からなくなっており、親が意図的に割ってしまうケースも確認されました。
シュレーターペンギンは、明らかに1つ目の小さな卵を拒絶していたのです。
これらを踏まえて、研究チームは、シュレーターペンギンの両親が、2羽のヒナを同時に養えないために、サイズが大きくて抱卵(親鳥が卵を温めること)しやすい2個目の卵を繁殖に選んでいる可能性が高い、と指摘します。
デイビス氏によると、シュレーターペンギンの親は、沖合で採餌をするため、2羽分の十分な食料を持ち帰ることができないといいます。
少ない食料で2羽とも育てて両方死なせるよりは、孵化率の高い大きな卵の方を確実に育てようと考えているのかもしれません。
「それなら大きな卵を一つだけ産めば良いのではないか」とも思いますが、チームはその点について、「2個の卵を産んで孵化させるという祖先の繁殖習性をそのまま受け継いでいるためではないか」と推測します。
しかし、今日のシュレーターペンギンは、2羽のヒナに十分な餌を与えることができないため、1つ目の卵を犠牲にしているようです。
これと別にチームは、シュレーターペンギンの血液サンプルを採取し、分析したところ、興味深い事実が判明しました。
他種のペンギンでは通常、繁殖期間の始まりに、オスのテストステロン(男性ホルモン)値が高く、メスのテストステロン値が低くなります。
ところが、シュレーターペンギンはその逆で、オスは低く、メスはオスと同じか、それ以上に高かったのです。
その証拠に、繁殖シーズンのシュレーターペンギンのオスは非常に大人しく、ライバル間の争いもありませんでした。
他種のペンギンは、繁殖期になるとオス同士が攻撃的になり、互いにバトルが頻発します。
一方で、その後の抱卵期間になると、今度はメスのテストステロン値が下がり、オスのテストステロン値が上昇しました。
これは、オスが巣や抱卵中のメスを守るのに役立っているのかもしれません。
まとめ
シュレーターペンギンは、地球上のすべてのペンギン種の中で、その孤立性から、最も研究が進んでいない種です。
孤立性ゆえに、人間の活動からはある程度守られているのですが、温暖化の影響により、種の存続の危機に瀕しています。
シュレーターペンギンは過去50年間で数が激減しており、すでに絶滅危惧種にも指定されています。
デイビス氏は、次のように話します。
「シュレーターペンギンについては、ほとんど何もわかっていないと言っても過言ではなく、いまだ多くの謎に包まれています。
手遅れになる前に、シュレーターペンギンの生態を詳しく知ることが急務となるでしょう」