有名な二重スリット実験は、量子の本質だけを取り出しても成り立つ
有名な二重スリット実験は、量子の本質だけを取り出しても成り立つ / Credit:Famous double-slit experiment holds up when stripped to its quantum essentials
physics

有名な二重スリット実験は、量子の本質だけを取り出しても成り立つ

2025.08.19 17:00:36 Tuesday

アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で行われた研究により、有名な「二重スリット実験」の「本質」を極限までシンプルにすると、物質の“もやもや”した存在確率、つまり量子の特徴そのものだけで成り立つことが、今回の最新研究ではっきり示されました。

この実験では、通常のように板に空いた二つの穴(スリット)を使うのではなく、代わりに“ぼんやりした位置”に存在する原子そのものをスリットとして使いました。

原子の位置は完全には決まっておらず、「このあたりにいる確率が高い」という、いわゆる“波束(はそく)”という形で広がっています。

そんな原子のそばに1個の光子を飛ばすと、光子は原子のどこかをかすめて通ります。

その際、光子が原子にほんのわずかな影響を与えることで、「どちらを通ったか」という情報がこの世界のどこかに記録されてしまいます。

するとその瞬間、光は“波”としてのふるまいをやめ、“粒”として観測されるのです。

この極限までシンプルにした「原子×光子」の実験でも、「情報の記録が現実を変える」という量子のルールがそのまま働いていることが確認されました。

つまり、重たい観察装置や大がかりなスリット板がなくても、たった一つの原子と光子だけで、量子力学が示す「観察=情報の記録が現実に影響する」ことが実証されたのです。

(※論文の厳密な解説のみが読みたいというひとは最終ページに飛んで下さい)

研究内容の詳細は2025年7月22日に『Physical Review Letters』にて発表されました。

Famous double-slit experiment holds up when stripped to its quantum essentials https://news.mit.edu/2025/famous-double-slit-experiment-holds-when-stripped-to-quantum-essentials-0728
Coherent and Incoherent Light Scattering by Single-Atom Wave Packets https://doi.org/10.1103/zwhd-1k2t

アインシュタインが残した二重スリット実験の宿題

アインシュタインが残した二重スリット実験の宿題
アインシュタインが残した二重スリット実験の宿題 / Credit:Wikimedia Credit:

光が波なのか粒なのか――これは量子力学の出発点ともいえる問いです。

その答えを探るために考案されたのが、あの有名な「二重スリット実験」です。

まずは、日常的な例で考えてみましょう。

砂粒やBB弾のような粒を、2つの穴を通して奥のスクリーンに向かって飛ばすと、それぞれの穴の位置に対応した2本の線がスクリーンに現れます。

これは当然の結果です。ところが光で同じことをすると、まるで水面の波のように広がって、2つの穴の後ろに明るい線と暗い線が交互に並ぶ「干渉縞(かんしょうじま)」が現れます。これは「波の性質」が働いている証拠です。

けれども、その光が「どちらの穴を通ったか」を調べるために観察装置を設置すると、あのしま模様は消えてしまい、光は粒のようなふるまいだけを見せるのです。

つまり光は、「粒」としての性質と「波」としての性質を持ちますが、それらは同時には現れてくれません。

このようなふるまいを説明する考え方が「相補性原理(そうほせいげんり)」であり、量子力学の核心的な原理の一つとなっています。

しかし、20世紀初頭の物理学者アルベルト・アインシュタインは、この現象に疑問を抱いていました。

彼は「観察によって現実が変わる」という量子力学の考え方には懐疑的で、「実際の世界は、私たちが見ようが見まいが、ちゃんと存在している」と信じていたのです

そこで1927年に、アインシュタインはあるアイデアを提案しました。

光が本当に「粒」であるならば、粒がスリットを通る瞬間にスリットをわずかに揺らし、微かな反動を与えるだろうと考えました。

例えば、小鳥が木の葉にぶつかったときに葉がわずかに動くような感じです。

もしスリットがバネのような非常に敏感な装置で支えられていれば、光が通過する瞬間の微妙な揺れを検知できるはずです。

つまり、粒子として光の経路を特定できることになります。

一方で、光が波としての性質を同時に示し、スクリーンにしま模様(干渉縞)も現れるならば、光の「粒」と「波」の両方を一度に観察できる可能性があります。

アインシュタインは、このように極めて繊細な観察を行えば観察による影響は限りなく小さくなり、実験の前半では光が粒子で後半では波として記録され粒子と波の性質が両方同時に見えるかもしれないと考えました。

つまりアインシュタインは、「観察することで現実が変わる」という量子の奇妙な考え方に反論し、「本当にうまくやれば波と粒を同時に見られるのでは?」と主張したのです。

MITの研究チームは、この長年の議論に決着をつけるために、新しい実験を行いました。

果たしてアインシュタインの宿題は果たせたのでしょうか?

次ページスリットの代りを「1個の原子」に任せる究極の簡素化

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