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Source: Kovalev et al.
space

地球に向けられた「サウロンの目」を捉えた

2025.08.19 18:00:59 Tuesday

ドイツのマックス・プランク電波天文学研究所(MPIfR)を中心とする国際研究チームは、宇宙の深淵から地球をじっと睨みつけるような「サウロンの目」を捉え、その奇妙な正体を解き明かすことに成功しました

この「目」の正体は、「PKS 1424+240」と呼ばれる銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールから噴き出す高速の粒子の流れ「ジェット」です。

このジェットは偶然にも地球の方向に向けてまっすぐ伸びており、強いガンマ線や「幽霊粒子」とも呼ばれるニュートリノ(ほとんど物質と反応しない極小の粒子)を大量に送り出しています。

ところが、電波望遠鏡で観測すると、そのジェットの動きはまるで「止まっている」かのように遅く見えていたのです。

通常、これほど高エネルギーなジェットであれば、光速に近いスピードで動いているはずです。

にもかかわらず、実際にはのろのろと進んでいるように見える――この矛盾は「ドップラー因子危機」と呼ばれ、35年以上も天文学者たちを悩ませてきました。

この宇宙に浮かぶ不気味な「サウロンの目」の矛盾はどのような仕組みによって生じていたのでしょうか?

(※論文の厳密な解説のみが読みたいというひとは最終ページに飛んで下さい)

研究内容の詳細は2025年8月12日に『Astronomy & Astrophysics』にて発表されました。

Looking into the jet cone of the neutrino-associated very high-energy blazar PKS 1424+240 https://doi.org/10.1051/0004-6361/202555400

35年間放置された“ゆっくりビーム”の謎

35年間放置された“ゆっくりビーム”の謎
35年間放置された“ゆっくりビーム”の謎 / Credit:Canva

宇宙にある多くの銀河の中心には、非常に巨大なブラックホールが存在しています。

こうしたブラックホールは周囲のガスや星を強力な重力で引きつけて飲み込みながら、その一部を猛烈な勢いで噴き出しています。

例えるなら、水道の蛇口を勢いよく開くと水が細い束(ジェット)になって飛び出すように、ブラックホールも両極方向へ細く絞ったガスや粒子の束を勢いよく噴き出しています。

この細くて高速な粒子の流れを、天文学者は「ジェット」と呼んでいます。

こうしたジェットを特に強く放出している銀河は「活動銀河核(AGN)」と呼ばれます。

さらにその中でも、ジェットの向きが地球と偶然ほぼ同じ方向だった場合には「ブレイザー」と呼ばれます。

ブレイザーは、私たちの視点から見ると、非常に明るく、しかも激しいエネルギーを放出しているように見えます。

そのため、ブレイザーは“宇宙最大の粒子加速器”とも例えられています。

中でも今回の研究対象となったPKS 1424+240は、地球から数十億光年離れた場所にあるブレイザーです。

この銀河は、南極にある「アイスキューブ観測所」がつかんだ宇宙のニュートリノ分布図で、最も明るい天体のひとつとして知られています。

ニュートリノは、ほとんどの物質をすり抜ける性質を持つため「幽霊粒子」と呼ばれますが、ここからはそのニュートリノが大量に飛び出していると見られています。

さらに、この銀河は地上のガンマ線望遠鏡による観測でも、非常に強い放射が確認されており、“二重に謎めいた存在”として注目されてきました。

しかし、そんなエネルギッシュな銀河から放たれているはずのジェットを電波望遠鏡で観察してみると、なんと動きが非常に遅く見えるという“逆転現象”が起きていたのです。

本来、これほど明るい放射を出しているなら、ジェットも非常に速く動いているはずです。にもかかわらず、まるでスローモーションのように見える――この違和感は、1980年代から「ドップラー因子危機」として天文学界の大きな課題となっていました。

そこで研究チームは、この矛盾を解き明かすことにしました。

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