クジラとイルカの交流は偶然か、それとも“意図”があるのか
海で暮らす大型のクジラと、小型で動きの速いイルカ。この2種類の動物が近くで行動する様子は、世界各地で漁師や観光客に目撃されてきました。
中にはイルカがクジラの頭の前に位置して、先導するように泳ぐ姿もあります。こうした光景は印象的ですが、なぜそうしているのか、その理由ははっきりとは分かっていませんでした。
これまでの研究では、同じ種の仲間同士での「遊び」や協力行動は数多く記録されています。(ここでいう遊びとは、食べ物をとることや敵から逃げることのような直接的な生きるための活動ではなく、仲間との関係を深めたり、動きや反応の幅を広げたりする行動を指す)
イルカやクジラの場合も、同じ仲間同士で水面を飛び出して回転したり、物をくわえて運んだり、仲間と押し合ったりすることがこれにあたります。
一方で、種類の違うクジラとイルカがどのように関わるのかは、これまで断片的にしか報告されていませんでした。
たとえば、ザトウクジラ(英名:Humpback whale)とバンドウイルカ(英名:Bottlenose dolphin)が一緒に魚を追い込む「共同採餌」や、イルカがクジラを追い回すような例は知られています。しかし、それが偶然なのか、それとも遊びや交流といった積極的な意味を持つのかは分かっていませんでした。
この疑問を確かめるため、グリフィス大学(Griffith University)の研究チームは、近年増えている観光客や市民による海の動画や写真に注目しました。ドローンや水中カメラのおかげで、これまでなら見逃していた行動も鮮明に記録できるようになり、SNSを通じて世界中から共有される時代になっています。
研究チームは、Facebook、Instagram、Flickr、TikTok、X(旧Twitter)、YouTubeを対象に、「クジラとイルカの遊び」や「クジラとイルカが泳ぐ」といったキーワードで検索し、2004年から2024年までの20年間に投稿された動画や写真からクジラとイルカが一緒に映っている場面を集めました。

集めた投稿は2人の研究者が確認し、どの種類のクジラとイルカなのか、どんな行動をしているのかを分類しました。同じ出来事を別の角度から撮った映像や、判別できない映像を除外すると、最終的に199件の交流イベントを分析対象としました。
行動の記録には、観察した行動を項目ごとに分類して記録する方法が使われました。イルカでは「クジラの頭の前で波に乗る」「並んで泳ぐ」「ジャンプする」「尾びれで水面をたたく」などが分類され、クジラでは「体を回転させる」「腹を見せる」「胸びれを動かす」などが含まれます。
さらにこの研究には、吸盤でザトウクジラにカメラを取り付けて撮影した映像も含まれていました。その映像からは、海面からは見えないイルカとクジラの接近や接触、水中での並走といった詳細な様子が記録されていました。
こうして集まった記録は、世界17か国で425頭のクジラとおよそ1,570頭のイルカに及びました。研究チームは、これらの行動がたまたま一緒にいただけなのか、それとも種を超えた遊びや交流の証拠なのかを見極めるため、詳細な分析を行ったのです。