体外受精の妊娠率は「禁欲期間」で変わる――溜めるといいのは本当か?
体外受精の妊娠率は「禁欲期間」で変わる――溜めるといいのは本当か? / Credit:Canva
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体外受精の妊娠率は「禁欲期間」で変わる――溜めるといいのは本当か?

2026.01.05 20:00:52 Monday

中国の吉林大学第一病院(吉林大学、JLU)で行われた研究によって、体外受精の妊娠率が「男性がいつ射精したか」によって変わる可能性が示されました。

研究チームは通常の体外受精(c-IVF)を受けるカップル約500組を対象に、採卵の前48時間以内に一度射精してから精子のサンプルを出したグループと、従来どおり禁欲してから射精したグループを比較しました。

その結果、直前に射精したグループでは臨床妊娠率がおよそ54%に対して、禁欲したグループの臨床妊娠率は約45%に留まり、9%の開きがみられました。

つまり「精子を長く溜めるほど有利」という従来のイメージとは逆に、「採卵の直前48時間以内に一度射精しておく」というシンプルな行動が、体外受精の成績を押し上げるかもしれないということになります。

では、なぜ禁欲期間を短くしただけで、妊娠率や妊娠の続きやすさにこれほどの差が生まれたのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年12月2日に世界的医学誌The LancetグループがSSRNと共同で運営するプレプリント公開枠『Preprints with The Lancet』で公開されました。

Trigger-Day Ejaculation Improves Conventional in vitro fertilization Outcomes: A Prospective Randomized Controlled Trial https://dx.doi.org/10.2139/ssrn.5821645

精子の数か質か、それが問題だ

精子の数か質か、それが問題だ
精子の数か質か、それが問題だ / Credit:Canva

「精子は、たっぷり溜めてから出すほうが濃くて強い」。

そんなふうに考えている人は少なくないと思います。

実際に病院で精液検査を受けるときにも、「数日間は射精を我慢してください」と言われます。

これは、精子をたくさん溜めるほど濃度が高くなり、精子の総数が増えるだろうというシンプルな考え方に基づいています。

WHO(世界保健機関)も、精液検査をするときには射精を2〜7日間控えることを目安として示しています。

これが一種の「常識」として定着しているわけです。

しかし最近、この常識を揺るがすような研究結果が積み重なっています。

それは、「精子は溜めれば溜めるほど良いわけではないかもしれない」という報告です。

なぜそういう話が出てきたのかというと、精子が男性の体内で待機しているあいだに、少しずつダメージを受けることが知られてきたからです。

精子は、精巣(精子が作られる場所)や精巣上体(精子を貯める場所)で待機していますが、この待機中に「活性酸素」という非常に反応性の強い酸素分子にさらされる時間が長くなります。

これは鉄が酸素に触れてサビるのに似た現象で、精子の中のDNAをじわじわと傷つけると考えられています。

つまり、「溜めておけば強くなる」と思っていた精子が、逆に待機しすぎることで少しずつ弱ってしまう可能性があるのです。

さらに近年、体外受精の世界では顕微授精(ICSI)という特別な方法を使った場合に、「禁欲期間を短くしたほうが良い結果になるかもしれない」という報告がちらほらと登場しています。

顕微授精というのは、一つの卵子に一本の精子を針で直接注入して受精させる方法です。

精子の数がとても少なくても比較的実施しやすいため、「量」よりも「質」のほうが重要になるわけです。

ところが、今回テーマになっている「通常の体外受精(c-IVF)」では事情が異なります。

体外受精(c-IVF)とは、顕微授精とは違い、多数の精子と卵子をお皿の中に一緒に入れて、自然に近い形で受精させる方法です。

この方法では、精子の数があまりに少ないと受精がうまくいかず、結局顕微授精(ICSI)に切り替える必要が生じることがあります。

「短い禁欲だと精子の数が減りすぎてしまい、かえって不妊治療の成績が下がるのでは?」という不安があったのです。

このままでは「数が一番大事では?」➔「数より質では?」➔「質もいいけど数がやっぱり大事では?」と堂々巡り状態になってしまいます。

そこで今回、中国の研究チームが著者らによれば通常の体外受精では初めて、本格的にこの問題に挑みました。

次ページ精子の「量で負けて、質で勝つ」逆転劇

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