精子の「量で負けて、質で勝つ」逆転劇

通常の体外受精(c-IVF)では数と質のどちらが重要なのか?
答えを得るため研究者たちは体外受精を予定しているカップル500組を2つのグループにわけました。
そして1つ目は両方のグループとも基本は3〜4日に1度射精してもらいながら、採卵する日の48時間以内に最後の射精をして、常に新鮮な少数精鋭の精子を用意するグループ。
2つ目はある程度長く禁欲(約2日〜7日間)してもらい、採精の直前までは射精を控えたグループです。
結果、1つ目の直前にも射精していたグループの臨床妊娠率は約54.4%であったのに対し、一方、「通常禁欲グループ」は約44.9%にとどまっていたことがわかりました。
差は約9.5ポイントで、ちょっとした差のように見えるかもしれませんが、体外受精の世界では無視できない数字です。
さらに、もう一つ重要な指標として「継続妊娠率」があります。
これは単に妊娠したかどうかだけでなく、妊娠が12週を過ぎても続いているかどうかを調べるものです。
こちらも直前にも射精していたグループでは46.0%、通常禁欲グループでは35.7%と、約10ポイントの明らかな差が見られました。
普通に考えれば、「48時間前という直前のタイミングで射精していると、精子の数が減ってしまうので不利になるのでは?」と思いがちです。
実際、この研究でも、精液量や精子の濃さ、総精子数といった「量」の面では、トリガー日射精グループの方が不利でした。
つまり、精子の数そのものはやっぱり減ってしまっていたのです。
しかしその後の妊娠率や継続妊娠率では、短い禁欲期間のグループが勝っているのです。
この結果は「量で負けて、勝負で勝つ」という逆転劇が起きていることを示しています。
この奇妙な“ねじれ現象”について研究者たちは、「短い禁欲期間で新鮮なうちに出された精子は、DNAが傷つきにくく、受精卵がその後も順調に育ちやすいのかもしれない」との推測を行っています。
言い換えれば、直前にも射精するほど頻繁に出していることで、精子の質が常に保たれていた可能性があるのです。
イメージで例えるならば古い電池をたくさん集めるより、新しい電池を少し使ったほうが機械がよく動く、という感覚に近いかもしれません。

今回の研究により、「通常の体外受精において、最後の射精から採卵当日に精子を出すまでの期間を2〜7日から48時間以内に短くすると、臨床妊娠や継続妊娠の割合が高い“傾向”が示された」と言えます。
著者らは、この試験を「体外受精における射精禁欲を短くする効果を検証した初のランダム化比較試験」と位置づけており、短い禁欲(直前に出して新鮮な精子を貯めておく)は顕微授精(ICSI)だけでなく体外受精においても、有望な戦略になりうると述べています。
精子の数を増やす薬を開発したり、高価な装置を導入したりする前に、「禁欲を短くする(頻繁に射精する)」という行動レベルの工夫だけで、妊娠率が改善する可能性があるなら、ほぼノーコストで妊娠の割合が良くなる可能性があります。
(※この研究結果が全てだと思い込み患者が自己判断するのは危険です。実際の現場では医師との相談をしながら決めて下さい。)
もし将来、別の病院や国、さまざまな条件のカップルで同様の結果が再現されれば、体外受精の説明パンフレットに書かれる「禁欲2〜7日」という一文が、「採卵前48時間以内に最後の射精をしてください」といったより具体的な指示に書き換わるかもしれません。


























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精子も使い捨ての道具ですからね、回転率がいいのがいいのでしょう。
DNAの損傷という観点であれば、禁欲するかしないかどうかは、産まれた後の障がいのある割合とかにも影響ありそうですね