餌が少ないので、2羽を同時には育てられない
これらを踏まえてチームは、シュレーターペンギンの両親が2羽のヒナを同時に養えないために、サイズが大きくて抱卵(親鳥が卵を温めること)しやすい2個目の卵を繁殖に選んでいる可能性が高いと指摘します。
デイビス氏によると、シュレーターペンギンの親は沖合に出て採餌をするため、泳ぎながらではたくさんの餌を持つことができず、2羽分の十分な食料を持ち帰れないといいます。
また沖合に出るのはシュレーターペンギンにとって非常に危険なことであり、何往復も餌を取りに行くことはできません。
少ない食料で2羽とも育てて両方死なせるよりは、孵化率の高い大きな卵の方を確実に育てようと考えているのかもしれません。
「それなら大きな卵を一つだけ産めば良いのではないか」とも思いますが、チームはその点について、「2個の卵を産んで孵化させるという祖先の繁殖習性をそのまま受け継いでいるためではないか」と推測します。
しかし今日のシュレーターペンギンは、2羽のヒナに十分な餌を与えることができないため、1つ目の卵をあえて犠牲にしているようです。
これと別にチームは、シュレーターペンギンの血液サンプルを採取して分析したところ、興味深い事実を見出します。
他種のペンギンでは通常、繁殖期間の始まりに、オスのテストステロン(男性ホルモン)値が高く、メスのテストステロン値が低くなります。
ところがシュレーターペンギンはその逆で、オスのテストステロン値は繁殖期間に低く、メスはオスと同じか、それ以上に高かったのです。
その証拠に、繁殖シーズンのシュレーターペンギンのオスは非常に大人しく、ライバル間の争いもありませんでした。
他種のペンギンは、繁殖期になるとオス同士が攻撃的になり、互いにバトルが頻発します。
一方で、その後の抱卵期間になると、今度はメスのテストステロン値が下がり、オスのテストステロン値が上昇しました。
これはオスが巣や抱卵中のメスを守るのに役立っているのかもしれません。
まとめ
シュレーターペンギンは、地球上のすべてのペンギン種の中で、その孤立性から最も研究が進んでいない種です。
孤立性ゆえに人間の活動からはある程度守られているのですが、温暖化の影響により、種の存続の危機に瀕しています。
シュレーターペンギンは過去50年間で数が激減しており、すでに絶滅危惧種にも指定されています。
デイビス氏は次のように話しました。
「シュレーターペンギンについては、ほとんど何もわかっていないと言っても過言ではなく、いまだ多くの謎に包まれています。
手遅れになる前に、シュレーターペンギンの生態を詳しく知ることが急務となるでしょう」
※この記事は2022年10月に掲載したものを再編集してお送りしています。
・一個目の卵は温めさえすればふ化し正常な大人になるのでしょうか?
・進化の途中で、卵を狙う外敵用のいけにえのためであった可能性もあるかも知れません。