なぜ「舐め合い=友情」と思われてきたのか

相手を舐めてあげる毛づくろい(アログルーミング)は、サルもウマもウシも鳥も、さらには昆虫まで、動物界のあちこちで見られる行動です。
こうした行動には、大きく分けて三つの役割があると考えられてきました。
一つは衛生面——自分では届かない場所をきれいにしてもらうこと。
もう一つは生理面——他の動物では、舐められた側の心拍数が下がるなど、リラックス反応が報告されていること。
そして三つ目が社会面——仲間との絆を深める、という役割です。
猫の場合、特に注目されてきたのは三つ目の「社会的な絆」のほうでした。
野良猫のコロニーを観察した研究者たちは、毛づくろいが仲の良い猫同士、特に血のつながりのある猫や、長く一緒に暮らした猫の間で多く見られることに気づきました。
身体をぴったりくっつけ合ったり、鼻をこすり合わせたりといった行動とセットで観察されることも多く、獣医学の教科書でもこの行為は「友好的」「親和的」な行動として紹介されてきたのです。
しかしベルギー・ゲント大学で猫の行動を研究するモルガン・ヴァン・ベル氏はこの定説に引っかかりを覚えていました。
きっかけは、ごく個人的な場面です。
自宅で飼っている2匹の猫の様子を眺めていたときのこと。
1匹が窓際の日当たりの良いお気に入りの場所で、気持ちよさそうに寝転がっていました。
するともう1匹が近づいてきて、寝転がっている猫を舐め始めたのです。
微笑ましい光景に見えます。
でも、結末は意外なものでした。
舐められた猫はしばらくすると立ち上がり、その場を譲ってどこかへ行ってしまったのです。
そして、残ったもう1匹が空いた日当たりの良い場所に悠然と寝そべりました。
友好的サインと思われていた毛づくろいの結果が「立ち退き」だったわけです。
そこでベル氏は毛づくろいには「友好」だけではない、別の意味があるのではないかと考え、この直感を科学的に調べることにしました。
調査にあたっては、2匹の猫を飼っている家庭(53世帯)に、猫同士のやり取りを動画で撮影してもらい、計106頭の猫の行動を23の項目にわたって詳しく分析したのです。
本当に猫たちの毛づくろいには「圧」が込められていたのでしょうか?




























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