特定腸内菌を選択的に増殖させる食事介入戦略が開発された
特定腸内菌を選択的に増殖させる食事介入戦略が開発された / Credit:Canva
biology

日本の大学が特定腸内菌を選択的に増殖させる食事介入戦略を開発

2025.07.22 18:00:13 Tuesday

腸内細菌の勢力図をたった36時間で思い通りに塗り替える――そんな夢のような戦略が現実になりました。

慶應義塾大学と北里大学の研究チームが発表した新手法では、「断食」と腸内細菌の大好物である腸内細菌利用糖(MACs)を組み合わせることで、特定の有用菌(いわゆる善玉菌)を短期間で選択的に増やすことに成功しました。

従来、腸内環境は安定していて短時間で大きく変えるのは難しいとされてきましたが、この方法はその壁を乗り越え、抗生物質を使わずに腸内フローラを素早く有益な方向へ導ける点が画期的です。

さらにマウス実験では、腸の免疫を支えるIgA抗体の産生量が通常条件に比べ最大で約18倍にも増加しており、健康維持や感染症予防にも新たな道を拓く可能性があると注目されています。

薬に頼らず短期で腸内環境と粘膜免疫を同時に制御できるこの新手法は、ヒトの健康管理にどのような革新をもたらすのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年7月5日に『BMC Microbiology』にて発表されました。

絶食と腸内細菌利用糖の併用により腸内環境を短時間で再構築-特定腸内菌を選択的に増殖させる精密な食事介入戦略- https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2025/7/9/28-168161/
Fasting builds a favorable environment for effective gut microbiota modulation by microbiota-accessible carbohydrates https://doi.org/10.1186/s12866-025-04140-y

頑固な腸内細菌を変える新しいアイデアとは

頑固な腸内細菌を変える新しいアイデアとは
頑固な腸内細菌を変える新しいアイデアとは / Credit:Canva

「最近、なんだか体調がいまひとつ……」

そんなとき、ヨーグルトや食物繊維を意識的に摂って「腸活」を始めたという経験がある方は少なくないでしょう。

実は私たちの腸の中には、なんと100兆個以上もの細菌が住み着いており、それらが一つの大きな生態系(腸内細菌叢、またはマイクロバイオータ)を形成しています。

腸内細菌というと消化の手助けというイメージが強いかもしれませんが、最近の研究で、それだけにとどまらない重要な役割が次々と明らかになってきました。

腸内細菌が作り出すさまざまな代謝物質は、私たちの免疫機能を調節したり、脳の働きや気分、さらには炎症反応までコントロールしていることが分かってきています。

つまり、腸内細菌は単なる腸の居候ではなく、私たちの健康を左右する重要なパートナーなのです。

そのため、腸内細菌のバランスを良好に保つための方法、いわゆる「腸活」が注目されるようになりました。

その腸活のカギとして期待されているのが、食物繊維やオリゴ糖などの「腸内細菌利用糖(MACs)」です。

これらの糖は、人間自身の消化酵素では分解することができませんが、腸内細菌にとっては絶好の「エサ」となります。

腸内細菌がこれらの糖を利用することで腸内環境が整い、健康維持や病気の予防につながることが期待されているのです。

ところが、腸内環境には一つ難しい課題がありました。

それは腸内細菌叢の持つ「頑健性(レジリエンス)」、つまり外からの働きかけに対して非常に強い抵抗力を持っていることです。

この頑健性はちょっとやそっとで腸内細菌叢が崩れないという点で有用ですが、腸活がなかなか上手くいかない原因でもあります。

腸の中には多種多様な細菌がいて、常に生存競争を繰り広げています。

そのため、特定の菌だけを短期間に大きく増やそうとしても、他の細菌との競争や相互作用が邪魔をして、なかなか思ったような効果が得られないことが多かったのです。

しかし最近の研究で、ある興味深い事実が明らかになりました。

それは「絶食」によって、この頑健性が一時的に弱まり、腸内細菌の勢力図が一気に変化するというものです。

実際に、絶食後には腸内細菌の種類や割合が劇的に変化し、その状態が絶食後もしばらく続くことが報告されています。

そこで今回、研究チームは大胆なアイデアを考えました。

「もし絶食によって腸内細菌叢が一度リセットされるなら、その直後に特定の菌が大好きなMACsを与えれば、狙った細菌だけを効率的に増やせるのではないか?」というものです。

いわば「腸内フローラのリセット&狙い撃ち給餌作戦」です。

このユニークな発想から、短期間で狙った腸内細菌をピンポイントで増殖させる、薬に頼らないまったく新しい腸活方法を開発することが、本研究の大きな目的でした。

では実際に、この斬新な作戦はうまくいったのでしょうか?

次ページ36時間の絶食で腸内環境はこう変わった

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