読字経験によって「話し言葉を聞く脳」へ変わっていく
脳活動を調べるため、研究チームは機能的磁気共鳴画像法を用いました。
その結果、特に注目されたのが「右下前頭回」と呼ばれる領域です。
この部位は、左半球にある有名なブローカ野と対応する位置にあり、言語の処理が難しい状況でより強く働くとされています。
そして”意味の分からない日本語”を聞いているとき、幼少期から読み書きを学んできた参加者では、この右下前頭回が強く活動していました。
一方で、機能的非識字の高齢者では、この領域の活動がほとんど見られませんでした。
つまり、意味が頼れない状況で音声を細かく分析する際、読字経験のある人は右半球の言語関連ネットワークを動員できるのに対し、その経験が乏しい人では同じ処理が行われにくかったのです。
また、年齢という観点では、読み書きができる高齢者は、同じく高学歴の若年成人と比べて、感覚運動ネットワークをより広く使っていることも分かりました。
これは、高齢者が長年の経験を生かして、音の聞き取りに関わるさまざまな脳領域を総動員している可能性を示しています。
研究者たちは、この違いが、長年の読字教育によって育ってきた能力と関係している可能性を指摘しています。
読むことを学ぶ過程では、言葉を音の単位に分解して意識的に扱う「音韻認識」という能力が育まれます。
この能力は日常会話ではあまり意識されませんが、意味が頼れない状況や認知的負荷が高い場面では重要な役割を果たします。
本研究は、読字が単に文字を理解するための技術ではなく、話し言葉そのものを分析的に処理する脳の回路を形づくっていることを示しています。
その影響は高齢期になっても残り、聞き取りが難しい状況での言語処理を支えている可能性があります。
今後は、こうした音の聞き取り能力や脳の使い方が、高齢期の脳機能の保ちやすさとどのように関係しているのかを、さらに詳しく調べていくことが期待されます。
本を読むという行為は、特に目立たない普通の習慣に思えることでしょう。
しかし、その積み重ねが、「言葉を聞く脳」を形づくっているのかもしれません。
























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